東京地検特捜部が自民党派閥の政治資金パーティー収入を巡る疑惑で強制捜査に踏み切った。パーティーで得た収益のうち政治資金収支報告書に記載されず「裏金」となった資金が大きな金額に上るとみられている。その使途がいかなるものか解明し、“令和の政治改革”を推進するショック療法としてほしい。
安倍、二階派を家宅捜索
特捜部は「清和政策研究会」(安倍派)、「志帥会」(二階派)の事務所を家宅捜索したが、「宏池政策研究会」(岸田派)など他派閥もパーティー収入を過少に収支報告書に記載した疑いがあると報じられている。派閥連合体とも表現される自民党の体質問題であろう。
これまで特捜部は派閥関係者や議員らの事情聴取を進めており、捜査によって収入の一部不記載に組織的な故意性があるかについて容疑を固めていくとみられる。政権を直撃する疑惑だけに野党の批判は厳しく、野党支持者には自民党議員の「逮捕」を待望する空気すらある。
自民党側の猛省は当然だ。ただ、適法な政治資金の集め方まで非難されるべきではない。民主主義社会では、党員が納める党費や党が発行する刊行物の販売収益、支持者の政治献金などと同様に、パーティー券を売ることも政治資金を集める方法としてあり得る。問題は政治資金収支報告書への記載を怠ったことであり、法に則(のっと)った資金集めの徹底化を図る必要がある。
この点、自浄作用が働かなくなり、今回特捜部の強制捜査を招くに至ったことに対し、自民党は派閥任せでなく、党を挙げて再発防止の具体化を急ぐべきだ。その意味で党総裁の岸田文雄首相には大きな責任がある。
臨時国会閉幕と共に疑惑が浮上した安倍派の4閣僚を更迭したが、このような切り捨てで幕引きを図ろうとする首相の手法は常套(じょうとう)手段となって、むしろ政治不信を招いている。パーティー券収益不記載は党全体を巻き込む問題となっており、同じ理屈ならば首相も退陣して然(しか)るべきであろう。
「裏金」の使途の解明は今後の捜査に委ねられているが、長期化する自民党政権では党総裁選を頂点に政治にカネが掛かる構造が以前から指摘されてきた。猟官運動や、選挙を巡る組織・団体、後援会を動員しての票固めのためだ。
政治は数であり、数を得るにはカネが掛かる。衆院中選挙区の時代に幾度かの疑獄事件を生んだ政治とカネの弊害から、派閥ではなく政策を中心とする「党営選挙」を行い、政権交代システムが機能する制度が導入された。この平成の政治改革によって衆院で小選挙区比例代表並立制が始まり、政党助成金が支給されるようになった。
与野党は国会のテーマに
だが、この選挙制度の下で野党は分裂し、岸田内閣が毎月のように最低支持率を更新しても政権交代が起こる機運はない。
このような自民党政権の長期化の中で、再び派閥政治や政治とカネの問題が生じたことを直視しなければならないだろう。特捜部の捜査を見守りつつ、与野党各党は今どのような政治改革が必要なのか、来年通常国会の主要テーマとすべきである。