【社説】有事の食料確保 穀物生産の基盤強化進めよ

農林水産省は食料安全保障に関する有識者検討会を開き、有事の際に食料を確保するために法整備が必要とする報告書をまとめた。

農業における「有事法制」の整備は当然のことだが、実効性を確保するには主食であるコメなどの生産基盤の強化や食料自給率の上昇が不可欠だ。

増産や生産転換を指示

ロシアによるウクライナ侵攻で、ウクライナからの穀物輸出が停止し穀物価格が高騰。異常気象などによっても将来、食料危機に直面する恐れがある。有事の食料確保は、食料の大半を海外からの輸入に依存しているわが国としては、国民の生存に関わる切実な問題だ。

新制度では、食料不足の恐れが生じた場合、首相をトップとする政府対策本部を設置し、増産や輸入拡大を求める。民間の自主的な取り組みを促す「要請」を基本とするが、食料不足が現実となり、十分な供給を確保できない場合は、国が実効性のある措置を指示できるようにするという。

具体的にはコメや小麦など重要品目の供給が2割以上減少した場合、輸入・生産や出荷調整の計画作成を指示する。さらに国民1人当たりに最低限必要な供給熱量1日1900㌔カロリーを下回った場合、イモなどカロリーの高い作物への生産転換や休耕地での増産を指示する。

国の要請に応じる事業者は、損失が出ないよう補助金などで支援する。その一方で指示に従わない場合は、罰金を科すなど罰則も設ける。状況がさらに悪化した際には、食料の配給や価格統制も想定しているという。

増産や生産作物の転換を指示するため、法整備は不可欠だ。しかし、それで食料危機を乗り越えられるとは思えない。輸入拡大を指示しても、それができなくなる可能性があり、最終的には自給率を高めるしかない。そのためには、生産基盤がしっかりしていなければならない。

休耕地での増産を指示するといっても、農業従事者の減少と高齢化が進んでいる状況の中、誰が行うのか。実際に行う農業者がいなくては、いかに法を整備し新制度を作ったとしても絵に描いた餅に等しい。

ロシアのウクライナ侵攻を機に、政府は食料安全保障の強化のため、「農政の憲法」と呼ばれる食料・農業・農村基本法の改正の検討作業に入っているが、最大の課題は農業人材の確保と大規模化の推進だ。

日本の農業は多くの可能性を秘めている。一方で基幹的農業従事者の半数が60歳以上だ。このまま高齢化と従事者不足が進めば、生産調整のためではなく、人手不足のために耕作放棄地がどんどん増えていくことになる。平時の農業も危うくなりつつあるのが現状だ。

若い世代にアピールを

政府は農業従事者、とりわけ若い農業者の育成に本腰を入れる必要がある。

幸い、農業は若い世代の注目を集めている。ビジネスとしての可能性、食や自然の中での労働への関心の高まりなどがその理由だが、これらに加え、農業が食料安全保障に不可欠の産業であることを国はアピールすべきである。

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