【社説】臨時国会閉幕 目立つ首相の政治家切り捨て

臨時国会が閉幕した。55日間の短い会期中に物価対策を柱とする総額13兆円の2023年度補正予算や政府の新規提出の12法案が成立したが、内閣改造の新布陣で政権浮揚を図ろうとした岸田文雄首相の思惑は外れ、内閣支持率は下がり続けた。

首相の指導力不足と不祥事による政務三役更迭が相次いだことで相乗的に国民の信は離れている。終盤は自民党の派閥政治資金パーティーの裏金疑惑に揺れ、閣僚らのさらなる更迭の運びとなるなど異常事態である。

世論への場当たり的対応

「経済、経済、経済」と経済対策を強調した首相の所信表明演説の印象も薄れるほど疑惑と政権不信に包まれたのは、世論への場当たり的な対応が目立った首相の政治家としての資質に疑問符が付いたためだろう。

一昨年の首相就任直後に行った衆院解散・総選挙や昨年の参院選は与野党とも防衛力増強を公約し、両選挙を制した岸田政権は策定した防衛3文書を着実に遂行するため、財源確保の議論を本格化させていなければならなかった。自民、公明の与党内には「恒久財源」論が根強いものの、当面は国債で賄うのか、増税を行うのかについて国家の安全保障に正面から取り組む議論を必要としたはずだ。

確かに電気料金、ガソリン価格をはじめ諸物価高騰は国民生活を圧迫している。しかし、首相が10月の衆参補欠選挙を前に突然、所得減税を言い出したのは、野党勢力が「増税メガネ」との揶揄(やゆ)で批判したことを気にした補選対策だったのではないか。内閣支持率は浮上するどころか、減税発言後も下がった。

また、10月20日に召集された臨時国会の期間中、同26日に不倫問題が報じられた山田太郎参院議員が文部科学政務官を辞任、同31日に公職選挙法違反への関与で柿沢未途衆院議員が法務副大臣を辞任、11月13日に税金滞納で神田憲次衆院議員が財務副大臣を辞任した。

岸田政権では閣僚らの更迭が目立つが、疑惑を掛けられると最高責任者の首相の保身を図る切り捨て人事が常態化している。これでは首相を支える与党議員らの熱量も冷え込むというものだ。政治資金パーティーの裏金疑惑では自民党安倍派の松野博一官房長官ら4人の閣僚の更迭、さらに複数の副大臣、党役員の辞任が固まっている。

岸田派にも政治資金収支報告書不記載の疑惑が浮上しており、つい最近まで自民党の慣例に反して首相でありながら派閥会長を続けていた岸田氏に責任がないとは言い難い。首相は臨時国会閉幕の記者会見で「政治の信頼回復」「国政の遅滞回避」を訴えたが、このままで納得する国民は多くはないだろう。

退陣でけじめ付けよ

支持率低迷で首相は年内の衆院解散を見送った。その後、自民党各派の政治資金パーティーの収入の一部が収支報告書に記載されていないとの告発を受け、東京地検特捜部が関係者に事情聴取を行っていると報じられた。キックバックによる裏金疑惑が今や自民党全体を巻き込んでいる。

党総裁の岸田首相が責任を取り、退陣によるけじめを考えるべきではないのか。

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