日本にとって望ましい安全保障環境を整備するには、日本自身の防衛力を強化するだけでなく、法の支配など基本的価値を共有する「同志国」の抑止力を高める必要がある。
このための重要な手段として、4月に創設された「政府安全保障能力強化支援」(OSA)の活用が挙げられる。
今年度は4カ国が対象
OSAは2022年末に改定した国家安全保障戦略で創設が決まった。中国の力による一方的な現状変更を抑止する狙いがある。実施方針には「支援する意義のある国に、軍等が裨益(ひえき)者となる協力を行う」と明記。支援分野として①領海等の警戒監視やテロ対策②災害対処や救難・救命③国連平和維持活動(PKO)参加に向けた能力強化――などを挙げた。資機材供与やインフラ整備は防衛装備移転三原則や同原則の運用指針の枠内で行う。
23年度予算に関連予算として約20億円を計上。フィリピン、マレーシア、バングラデシュ、フィジーの4カ国を対象に選んだ。11月に行われた岸田文雄首相とフィリピンのマルコス大統領との首脳会談では、OSAを活用し、南シナ海で中国と領有権を争うフィリピンへの沿岸監視レーダー供与で合意。初の適用例となった。
バングラデシュとは、警備艇4隻の導入費用5億7500万円を供与することで一致した。覇権主義的な動きを強める中国を牽制(けんせい)し、インド太平洋地域における海洋安保の強化につなげる必要がある。
日本がOSAを設けたのは、インド太平洋地域で自衛隊や米軍と共同で活動できる能力を持つ国は韓国やオーストラリアなどに限られているためだ。政府開発援助(ODA)は「非軍事原則」があり、安保関連の支援はできなかった。OSAによって、軍の統制下にある沿岸警備隊や、軍民が共用する港湾・空港などへの支援もできるようになった。
来年度はベトナムとアフリカ東部ジブチを対象とすることが決まった。11月の岸田首相とベトナムのボー・バン・トゥオン国家主席との首脳会談では、外交関係樹立50周年の節目を迎え、両国関係を「包括的戦略的パートナーシップ」に格上げすることで一致し、OSAも議題となった。ジブチはシーレーン(海上交通路)の要衝に位置し、自衛隊が拠点を設けている。
中国に対抗するには、自由や民主主義、法の支配などの基本的価値を共有し、「自由で開かれたインド太平洋」を支持する国と安保面で連携を強化しなければならない。中国が恐れているのは、共産党一党独裁体制を揺るがす民主的な価値が流入し、国民に大きな影響を与えることだ。この意味でも、同志国との協力深化が求められる。
対ASEAN関係強化を
今月には東京で日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)の特別首脳会議が開かれる。
日本は、南シナ海などで強引な海洋進出を続ける中国を念頭に、フィリピンやマレーシア、ベトナムに対するOSAを着実に進めるとともに、他のASEAN各国との関係も強化する必要がある。