【社説】中国反スパイ法 民主的価値観広げ圧力かけよ

中国湖南省で、スパイ行為を行った罪で懲役12年の実刑判決を受けた50代の日本人男性の上訴が棄却され、判決が確定した。

男性のどのような行為がスパイ罪に問われたのかは不明のままだ。中国当局による反スパイ法の恣意(しい)的な運用は在留邦人を脅かすものであり、断じて容認できない。

邦人の懲役12年確定

男性は2019年7月に湖南省長沙市で、スパイの取り締まりを担当する国家安全当局に拘束され、長沙市中級人民法院(地裁)が今年2月、懲役12年を言い渡した。男性は不服として上訴したが、湖南省高級人民法院(高裁)が棄却した。

ただ中国当局は詳細を明らかにせず、何が違反行為に当たるのかも分かっていない。人権、法の支配といった基本的価値観を持つ民主主義国では考えられない事態だ。

中国では14年に反スパイ法が施行され、これまでに日本人17人が不当に拘束された。このうち今回の男性を含む計10人の3~15年の実刑判決が確定し、起訴されていない人も含めると現時点で5人が中国にとどめられている。

今年3月にはアステラス製薬の50代の日本人男性社員が拘束され、10月に正式に逮捕された。日本政府は米国など自国民が拘束されている民主主義国とも協力し、早期解放に全力を挙げなければならない。

中国では7月に改正反スパイ法が施行され、「スパイ」とされる行為として「国家安全や利益に関わる」情報の窃取などが加えられた。しかし具体的な定義はなく、曖昧なままだ。多くの国で「正常」とされる外国企業の活動が「スパイ行為」と見なされることも考えられ、中国で暮らす日本人の間では不安が広がっている。適用範囲の拡大で、これまで以上に恣意的に運用されることが懸念される。

反スパイ法が改正された背景には、習近平国家主席の強い危機感がある。習氏は共産党による一党独裁体制を維持するため「国家安全」の確立を強調してきた。このため、共産党体制に反する考え方や価値観が外国から流入することに非常に神経質になっている。中国が各国に「警察拠点」を設立し、反体制派の監視に当たっているのもこうした危機感によるものだ。

故安倍晋三元首相が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」構想は、アジアとアフリカを結ぶ地域の経済成長と安定に向け、航行の自由や法の支配といった価値観を浸透させる狙いがある。この地域では中国が存在感を高めているが、中国にとって民主的価値観の広がりは大きな脅威だと言えよう。日本は米国、オーストラリア、インドとの4カ国の枠組み「クアッド」などを活用し、同構想を推進して中国に圧力をかける必要がある。

日本はスパイ防止法を

一方、日本は「スパイ天国」と言われ、中国や北朝鮮、ロシアなどのスパイが暗躍している。スパイ活動は日本以外の国では死刑や無期懲役となるほどの重罪だが、日本には取り締まる法律がない。スパイを事実上野放しにすれば国益が大きく損なわれよう。政府は防止法制定を急ぐべきだ。

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