オーストラリアのアルバニージー首相が中国を訪問し、習近平国家主席と会談した。会談では、近年悪化した両国関係の改善に向け、経済・貿易関係の正常化などについて話し合った。
中国側としては、今月中旬の実現を模索する米中首脳会談を前に、米豪の連携を揺さぶる狙いだ。豪州は中国への警戒を緩めてはならない。
「包囲網」崩しを狙う中国
モリソン前豪政権は2020年、中国に新型コロナウイルスの起源調査を求めた。中国は事実上の報復として豪産品の輸入制限に踏み切り、両国関係が悪化した。新型コロナの発生源である中国への当然の要求に対し、貿易制裁という経済的威圧で応じたことは、中国の異質性を示すものだと言える。
一方、昨年発足したアルバニージー政権は関係修復に乗り出し、中国側は大麦や木材への制限を解除したほか、今年10月にはワインへの制裁関税見直しに同意。豪州側は会談で、さらなる制限撤廃に加え、中国で19年から拘束されている豪国籍作家、楊恒均氏の解放を求めた。
豪州にとって中国は最大の貿易相手国だ。一定の関係を再構築するとしても、対中傾斜を強めないことが求められる。
習氏は「健全で安定した中豪関係は共通の利益にかなう」と語り、関係改善に意欲を示した。豪州は米主導の安保枠組み「AUKUS(オーカス)」や「クアッド」の一角を占めており、中国は米豪両国の間にくさびを打ち込んで「対中包囲網」を崩すことを狙っているとみていい。
今年4月に中国を訪問したフランスのマクロン大統領は、訪中時のインタビューで「(台湾問題で)欧州は米国に追従すべきでない」と述べて批判を浴びた。先進7カ国(G7)の一員であるフランスの大統領が、台湾統一に向けて武力行使を辞さないとしている中国に融和的な発言をしたことは残念だ。
これに対し、中国への警戒を強めるアルバニージー氏は今回、外遊で使用する空軍の専用機ではなく、ビジネスジェットで中国へ飛んだ。専用機が搭載する機密情報を中国に盗み取られるのを懸念したためだ。
豪州は経済安全保障の観点からレアアース(希土類)といった重要鉱物の供給網を日米などと構築し、中国に依存するリスクの低減を図っている。また抑止力の向上に向け、オーカスを通じた原子力潜水艦配備計画や、比較的射程の長い巡航ミサイルの導入を進めている。
民主主義国の豪州と共産党一党独裁体制を堅持する中国は、互いに異なる価値観に基づいて国家を運営している。覇権主義的な動きを強める中国に対応する上で、豪州は米国など民主主義国との連携を強化すべきだ。
日豪は一層の関係強化を
豪州と共にクアッドのメンバーである日本は、豪州を「準同盟国」と位置付けている。昨年10月の日豪首脳会談では、両国の安保協力を深化させる共同宣言に署名。両国の安保に影響を及ぼす緊急事態に際して「相互に協議し、対応措置を検討する」ことを盛り込んだ。「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、両国は一層の関係強化を進める必要がある。