米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設を巡り、工事の設計変更を知事に代わって承認する「代執行」に向けた訴訟の第1回口頭弁論が福岡高裁那覇支部で行われ、即日結審した。移設を巡る裁判では、故翁長雄志前知事の時から県側が敗訴を繰り返している。今回の訴訟も敗訴の公算が大きい。これ以上の争いは不毛である。玉城デニー知事は移設を受け入れるべきだ。
「代執行は容認できない」
この訴訟は、玉城氏の不承認決定取り消しを巡る法廷闘争で県側敗訴が確定した後も、知事側が承認に応じようとしないため、国が起こしたものだ。国側が「法治国家の原理に反し看過し難い」と指摘し、知事に設計変更承認を命じるよう求めたのは当然のことである。
これに対し、玉城氏は「沖縄県の自主性、自立性を侵害する代執行は到底容認できない」と指摘。裁判所に対し「県民の期待と願いを国家権力で踏みにじることを容認しないようお願いする」などと述べた。これは理解し難い。安全保障は国の専管事項であり、沖縄だけでなく日本全体に関わることである。沖縄は朝鮮半島や中国をにらむ戦略的要衝であり、在沖米軍の存在は日本の安全保障にとって死活的重要性を持つ。
住宅密集地に囲まれている普天間飛行場は「世界一危険な飛行場」と呼ばれており、その危険性除去は喫緊の課題だ。これと合わせて米軍の抑止力を維持するため、国は辺野古移設を「唯一の解決策」としてきた。
ところが玉城氏は「新基地建設」として反対し、法廷闘争を展開してきた。玉城氏は、県民が知事選や県民投票で移設反対の意思を示した「明確な民意」を強調する。ただ2019年2月に行われた県民投票では、反対票が投票総数の7割を超えたものの、全有権者の4割弱にとどまった。辺野古の地元住民は振興策などの条件付きで移設を容認しているが、このような民意を無視することがあってはなるまい。
沖縄県では、台湾に近い与那国島や石垣島、宮古島で自衛隊が増強されてきた。中国の習近平国家主席は、台湾統一に向けて武力行使を辞さない考えを表明している。台湾有事は日本有事であり、このことは昨年8月、ペロシ米下院議長(当時)の台湾訪問に反発した中国による台湾周辺での大規模演習で、中国の弾道ミサイル5発が日本の排他的経済水域(EEZ)に落下したことによって証明されたと言える。こうした中、玉城氏の辺野古移設への反対は中国を利することにもなりかねない。
国益損なう対決姿勢
中国共産党機関紙・人民日報は今年6月、習氏が琉球(沖縄)と中国の交流に触れた発言を伝えた。人民日報は13年5月、沖縄の帰属は「未解決」と主張し、中国に領有権があると示唆する研究者の論文を掲載したことがある。
今回の記事は、台湾問題に関与を強める日本への「警告」と捉える見方が出ている。こうした情勢を踏まえれば、本土と沖縄との溝を深めるような玉城氏の対決姿勢は国益を損なうものだと言わざるを得ない。