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【社説】経済対策 減税やめて給付に一本化を

政府は物価高に苦しむ家計支援のため、所得税・住民税の定額減税と低所得者向け給付を柱とし、17兆円台前半程度の総合経済対策を決めた。

しかし、物価高の苦境にある対策としては、実施が来年6月となる定額減税はいかにも遅過ぎる。公平性を期すために複雑な制度設計も求められ、効果も限定的という。定額減税はやめ、所得制限を設けた給付に一本化すべきである。

公平性のため制度複雑に

岸田文雄首相は「来年夏に国民所得の伸びが物価上昇を上回る状態を確実につくりたい」と語り、早ければ年内に給付を開始するとともに、年明け以降本格化する春闘で賃上げを促進する「二段構え」の対応を進める考えを示した。ボーナス支給時期と合わせ、2024年6月から定額減税を行えば「相乗効果を発揮できる」(首相)というわけである。

総合経済対策の目玉として実施する物価高対策は、24年6月に1人当たり所得税3万円と住民税1万円の計4万円を減税するほか、年内にも住民税が課税されない低所得者世帯に7万円を給付する。定額減税は3兆円台半ば、給付は1・1兆円で合わせて総額5兆円規模である。

物価高に苦しむ家計を支援するという目的はいいが、それにしては来年6月実施という定額減税は遅過ぎる。

給与の伸びを上回る物価高が続き、実質賃金は17カ月連続でマイナス、消費支出も6カ月連続でマイナスである。家計支援は早い方がいい。給付が求められる所以(ゆえん)である。

首相は来夏の給与明細で支援を「実感できる」としたが、その点でも、給付の方が分かりやすく強く実感できるだろう。

また、物価高対策は減税と給付を組み合わせるため、公平性を担保すると複雑な制度設計になる問題がある。

今回、政府は「成長の成果を国民に適切に『還元』する」として、定額減税と住民税非課税世帯への追加給付を実施する方針だ。だが、住民税のみを納税しているため所得税の減税や給付の対象にならなかったり、所得税を納めていても所得水準がそれほど高くなく、今回の減税の恩恵を十分に受けられなかったりする「隙間」に約900万人がいると想定される。

これらの人々に公平に「還元」するのにさまざまな調整が必要になり、制度が複雑になれば実務に当たる企業や自治体の対応もより煩雑なものになる。このため、狙った効果を発揮するまでに時間がかかる恐れがある。

労多くしてスピード感に欠けるだけでなく、効果についても定額減税の実施が来年6月と遅いため、消費を年1兆円程度押し上げるだけの限定的なものになるとみる識者もいる。

コンパクトな対策が適切

減税は取りやめ、高所得層を除くなど所得制限を設けた給付に一本化すれば、こうした煩雑さは省け、より実感の伴う、スピード感ある対策となろう。景気はコロナ禍からの回復途上にあり、物価高が消費の大きな妨げになっている。経済対策は物価高対策と賃上げの実現に資するものなどに絞ったコンパクトな対策が適切だろう。

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