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【社説】文化の日 創造と発信への支援強化を

きょうは文化の日。新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが5類に移行し、文化活動が本格化してきた。文化芸術はわれわれの人生を豊かにするとともに、経済や国力の源泉でもある。その創造と発信の在り方が改めて問われている。

文化庁が京都に移転

今年3月には、文化行政の中枢である文化庁が京都に移転した。移転に際して都倉俊一文化庁長官は「ポストコロナの文化芸術を世界に、そして次の世代に伝えていく役割を果たし、文化芸術立国を目指して邁進(まいしん)していく」と訓示した。

京都はかつて都が置かれ、わが国の文化の中心地であった。関西地方には神社仏閣をはじめ今も多くの伝統的文化財が存在する。文化財の保存事業など文化行政の重要な分野で現場感覚を獲得することは、実務遂行上のメリットが大きいだろう。

しかし、文化庁の京都移転にはもっと大きな意味がある。それは、悠久の伝統を枯れることのない源泉として新文化が創造されることを確認することである。無から有は生じない。新しい文化は常に伝統文化から養分を得、それを革新することで生まれてきた。

例えば歌舞伎の歴史を見ても、桃山時代の歌舞伎踊りから始まり、元禄時代には近松門左衛門という優れた劇作家を輩出。赤穂事件に材をとった「仮名手本忠臣蔵」などの国民劇も生まれるが、天保期に入ると、より古い演劇である能の演目を歌舞伎として上演する松羽目物と呼ばれる作品が生まれる。能の「安宅」を元に7代目市川團十郎が初演した「勧進帳」など、今も人気の高い演目だ。

幕末に数多くの名作を書いた河竹黙阿弥の作品の中の名セリフも、伝統的な七五調で書かれている。マンガ大国のルーツは、平安時代に描かれた「鳥獣戯画」にあると言われるように、日本文化の豊かさの秘密は、伝統の蓄積とその革新が常に行われてきたことにある。

海外旅行の行き先として日本が人気の国となっているのも、景色の良さだけではない。伝統文化と新しい文化が融合し、同時に楽しめることが大きな魅力だ。日本食も一つの文化として外国人の人気を集めている。

伝統の豊かさと創造性に目を向けた時、日本文化の可能性の高さは疑いない。しかし、世界への発信力という点ではまだ十分とは言えない。

韓流ドラマやKポップが世界を席巻している。背景には韓国の文化的な蓄積や能力の高い人材があるとともに、国策としてコンテンツ産業の育成、輸出振興に力を入れてきたことも大きい。現在の韓流の隆盛は、1997年のアジア通貨危機後、金大中氏が大統領に就任して以来、経済復興のためにコンテンツ産業を21世紀の基幹産業の一つとして育成し、法制度や支援体制作りを進めてきた結果である。

国際発信の強力な戦略を

京都に移転した文化庁の新体制の中核となる「長官戦略室」は、長官が直轄して全体の政策について企画・調整する。中でも日本の文化芸術の国際発信は、最重要テーマだ。そのための強力な戦略を立案し実行に移すべきである。

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