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【社説】虐待防止月間 子育て支援に力を入れよ

11月は児童虐待防止推進月間だ。今年の標語は「あなたしか 気づいてないかも そのサイン」。身近な子育て世帯への関心を高め、虐待の早期発見・通報を促し、事態を改善しようという意図が感じられる。

32年連続で過去最多

だが、虐待の背景にある根源的な問題は子育ての不調だ。親族や地域から孤立して子育てする若い夫婦が増えるなど、社会環境の変化が子育てを難しくしている。政府は妊産婦、子育て世帯そして子供への支援を包括的に行う「こども家庭センター」の全国展開を進めているが、虐待の根は深く行政の力だけでは限界がある。学校、NPO、企業をも巻き込み、家族、地域の絆を再生するための中長期的な取り組みに力を注ぐべきだ。

防止月間は2004年から毎年、厚生労働省が実施してきた。今年は、こども家庭庁が発足してから初めての月間。今月は「秋のこどもまんなか月間」でもあり、虐待防止もその一環として取り組む。

今年6月に閣議決定された「こども未来戦略方針」は「全ての人がこどもや子育て中の方々を応援するといった社会全体の意識改革を進める必要がある」と謳(うた)っている。ならば虐待への早期対応という従来の発想から抜け出し、家族と地域の絆の大切さを伝えるなど国民の意識改革を進める標語が欲しかった。そうでなければ「こどもまんなか社会」の実現はおぼつかない。

これまでの取り組みが効果を上げてこなかったことはデータを見れば一目瞭然だ。昨年度、児童相談所(児相)が虐待相談で対応した件数は約22万件(前年度比1万件超増)に達する。これは相談件数の集計が開始された1990年度以来、32年連続で過去最高となる惨憺(さんたん)たる状況である。

ただ、児相への通告件数は氷山の一角とみるべきだろう。死亡例も後を絶たない。虐待取り組みの歴史が長い米国などの例を見ると、実際に被害を受けている子供の数は全人口の1%程度だという。日本では100万人を超える計算になる。事態は予想以上に深刻である。

児相は児童福祉司・心理司を増員して対応するが、それでも人手が足りない。職員は疲弊し、保護者と被害児に対するケアが十分できなくなっている。今の子育て世代は、社会のIT化の影響で人間関係の構築が苦手と言われる。そんな中で被害児へのケアが疎かになれば、人間関係に困難を抱える若者を増やすことになる。これでは、負のスパイラルは止まるはずがない。

政治家は意識を変えよ

先月、埼玉県の自民党県議団が議会に提出していた虐待禁止条例改正案を取り下げるという失態があった。子供だけの登下校、公園での遊び、短時間の留守番までも禁じようとしたことに対して、県民だけでなく全国から批判の嵐が巻き起こった。

子育て世帯の実情を無視した条例案を提出したのは、虐待をなくすための根本的な取り組みは、人と人の絆を取り戻し、子育てしやすい社会環境を整えることだという認識に欠けていたからだ。国民の意識を変える前に、まず政治家の意識を変える必要がある。

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