【社説】性別変更 混乱の回避に知恵を絞れ

現行制度の性別変更要件となっている生殖能力をなくす手術について、最高裁大法廷が「違憲」の判断を示した。体が男性のまま「女性」への戸籍変更を認めたわけではないが、これをきっかけに性別は自己決定できるという運動が強まる恐れがある。法改正を迫られた国は男女の性別変更で社会が混乱しないよう、新たな制度制定に知恵を絞る必要がある。

生殖不能要件は「違憲」

現行の性同一性障害特例法は戸籍の性別変更要件として18歳以上で未婚など五つの要件を定めている。そのうち、大法廷が違憲と判断したのは「生殖不能要件」。事実上、卵巣や精巣を摘出する手術を受けることを求めている。

この要件については、最高裁小法廷が2019年に「合憲」と判断していた。生殖能力を残したまま性別変更を認めることは、生殖補助医療を使うなど子供を生む可能性を残すものだからだ。そうなれば、女性の体を持つ「父」、男性の体の「母」が出現し、社会に混乱が生じる。

これについて大法廷は身体への侵襲を受けない自由は憲法13条によって保障されているとするとともに、親子関係などに問題が生じることは「極めてまれ」とした。しかし、前述のようなケースは少ないにしても生まれる子供にとっては「まれ」では済まない。4年で判断を変えたことにも疑問が残る。

大法廷は、性同一性障害者への国民の理解が広まりつつあるなど、社会の変化も判断を変えた理由に挙げている。確かに、LGBT(性的少数者)の権利獲得運動が高まり、同性カップルの関係を「婚姻相当」と扱うパートナーシップ制度を設ける自治体が増えた。今年6月には「LGBT理解増進法」が施行している。

だが、これをもって性別変更に対する国民の意識が変わったとみるのは早計だろう。逆に、LGBT活動家や当事者が性別は性自認、つまり自己申告で決めることができる制度にすべきだとの声を高めてきたことで、戸籍変更が容易になることに不安を持つ国民が増えているのが実情だ。

出産する“男性”が出現することへの拒否感だけでなく、トイレや銭湯・温泉などの女性スペースに、男性器を持った“女性”が入ることに対しては、特に女性の不安が大きい。スポーツにおいては、元男性の女子競技参加を認めるのかという問題もある。性同一性障害の当事者らでさえも生殖不能手術を要件として残すことを求める署名活動を行い、約2万筆を集め最高裁に提出した。国民の意識から乖離(かいり)した大法廷の判断は、司法に対する国民の不信感を高めてしまったのではないか。

性自認不変の担保は難題

今回、大法廷は戸籍変更の要件の一つである「外観要件」については判断を避け、高裁に差し戻した。侵襲性を理由に、生殖能力の削除を違憲としたのだから、実質手術を強いる外観要件の維持も難しいだろう。

手術要件を撤廃したとすれば、戸籍変更後に性自認が変わらないことをどうやって担保するのか。大法廷は難しい課題を残したと言える。

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