岸田文雄首相の所信表明演説に対する代表質問が3日間にわたって国会で行われた。首相が演説で「経済、経済、経済」と連呼したように、経済対策が主要な論点だ。
限定的減税で期待薄
最初に質問した立憲民主党の泉健太代表は、首相の言葉を逆手に取って「国民が望むのはインフレ手当の『給付、給付、給付』ではないか」と強調した。臨時国会開会の際、首相は税収増を国民に還元すべく、所得税減税などの具体策を検討するよう自民、公明両党の幹部に指示したが、演説に「所得減税」という言葉は盛り込まれなかった。
ところが演説と同じ日、政府は所得税などを1人当たり年4万円差し引く「定額減税」を実施し、住民税非課税世帯には7万円の現金を給付する方向で調整に入った。これでは「議会を軽視した」との誹(そし)りは免れない。減税の実施期限は1年程度とみられるが、物価高に歯止めがかからない中、どれだけ負担減を実感でき、消費の喚起につながるのかは不透明だ。
経済政策を巡っては、与党公明党が所得税定額減税を掲げている。野党では、立民が全世帯の6割への「インフレ手当」3万円給付を提唱。日本維新の会は社会保険料の軽減と消費税率8%への減税、国民民主党は所得税と消費税の減税、共産党は消費税率5%への減税または廃止、れいわ新選組は消費税廃止を求めている。
予算規模が大幅に拡大する防衛費および少子化対策の財源をどう確保するかも課題だ。首相は6月、「異次元の少子化対策」をうたった「こども未来戦略方針」を閣議決定し、年間3兆円を超える財源の確保に向けた議論を始めたばかり。調整は難航している。
これについて泉代表が「(財源は)医療保険料に上乗せするのか」と問いただした。首相は「社会経済の参加者全員が連帯し、公平な立場で負担する」と答弁した。保険料の上乗せ徴収となれば、所得減税の恩恵が感じられなくなる。
各党の足並みが揃(そろ)っていない状況を利することができないのは、岸田首相のリーダーシップ不足に起因する。2日目の参院代表質問では、身内から辛辣(しんらつ)な批判が出た。自民の世耕弘成参院幹事長は「岸田総理の『決断』と『言葉』については、いくばくかの弱さを感じざるを得ない。その弱さが顕著に露呈したのが、今回の減税にまつわる一連の動き」と苦言を呈した。
衆参補選の2日前に所得減税の方針が示されたことで、与野党から「選挙対策」と不評を買った。場当たり的な人気取りにすぎないか、国民は厳しい目で見ている。
「所得倍増」掲げた真意は
2021年の自民党総裁選でも、岸田首相は「令和版所得倍増計画」と威勢のいい公約を掲げていた。もともとの「所得倍増計画」は、岸田首相率いる派閥、宏池会を立ち上げた池田勇人首相(当時)が打ち出した政策で、1960年に「国民所得倍増計画」として閣議決定された。高度成長期であればまだしも、ほとんど給与が上がらない今、岸田首相が令和版の計画を掲げたことの真意を問いたい。