岸田文雄首相が所信表明演説を行った。「変化の流れを絶対に逃さない」とし「経済」を最重点に対応する考えを強調した。しかし、言葉や意気込みが先行し、具体的な財源の確保策は語らなかった。
衆参補欠選挙でも「1勝1敗」と苦戦し政権への不信が露(あら)わになったばかり。今国会では新閣僚の「政治とカネ」に関する問題などの野党の追及も控えており、信頼回復への道のりは極めて険しい。
目論見が外れた補選
岸田首相が「経済、経済、経済」と連呼した経済対策のポイントは「一時的緩和措置」として税収増の一部を国民に還元する措置だ。首相は補選投開票日直前、所得減税を含めた検討を指示して選挙戦に有利に働くよう図った。しかし、その具体策を示さず実現度も定かでない目先の人気取り政策と多くの有権者は受け止めた。
演説で首相は「還元措置の具体化」に向けて与党の税制調査会に早急な検討を指示すると語った。だが、2022年度の税収増分の使途は方針が固まっており、減税に充てる財源がどこにあるのか不明だ。防衛財源確保のための増税実施時期も明らかにしないまま耳当たりのいい「減税話」を先行させている。
その背景には、岸田首相の政権戦略が来年秋の自民党総裁選での再選を前提に組み立てられていることがある。しかし、衆参補選の直前に世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の解散命令請求を行って支持率のアップを図り、減税をアピールして補選で圧勝し、いつでも衆院を解散できる環境を整えたいという目論見(もくろみ)はいずれも外れた。
参院徳島・高知選挙区は自民の前議員が秘書に暴力を振るったとして辞職して行われた選挙だった。しかし3回連続で自民が勝利してきた保守の地盤で、参院選では過去最低の投票率となり、合区導入の16年以降、自民は初めて議席を手放した。
自民衆院議員の死去に伴って行われた衆院長崎4区補選は、自民の新人が立憲民主党の前議員に競り勝った。「弔い選挙」となったことが自民に有利に働いたと言えるが、減税発言効果はなかった。
むしろ、両選挙区に共通していたのは保守層離れだ。LGBT理解増進法など社会を混乱させるリベラル法を成立させ、コアな自民支持層を失望させてきた影響が表れている。今後、与野党一騎打ちの選挙になった場合、厳しい戦いが予想される。
早急な改正が望まれる憲法についても首相は「これまで以上に積極的な議論が行われることを心から期待する」と最後の方で述べただけ。総裁在任中の改憲実現という公約を果たすためには、今国会中に条文案の作成にこぎ着かねばならない。残された時間は多くないはずだ。
国難対処の議論深化を
首相は「職を賭して粉骨砕身取り組む覚悟だ」と述べて演説を締めくくった。そうであれば、自らの政権延命、保身策が第一ではいけない。
国会はきょうから与野党代表質問がスタートするが、台湾有事などの緊急事態への備えなど国難に対処するための議論も深化させるべきである。