政府は台湾有事などを念頭に、住民避難に関する初期的計画を来年度中に策定することになった。このところイスラエルへのイスラム組織ハマスの奇襲に端を発するパレスチナ自治区ガザの避難民、ロシアのウクライナ侵略による避難民など戦禍による避難民は絶えない。中国は台湾武力統一を辞さない軍事的威嚇を続けており、不測の事態に備え東シナ海の離島住民の避難計画具体化を急ぐべきだ。
台湾有事のリスク高まる
松野博一官房長官は熊本県庁で蒲島郁夫知事と会談し、沖縄県・先島諸島の住民を九州各地に避難させる計画の策定に協力を求めた。すでに、東京電力福島第1原発事故による避難民を多くの自治体が受け入れた経験がある。
台湾有事を想定した避難の対象地域は、先島諸島の宮古島市など5市町村で、避難民は住民と観光客の計約12万人だ。陸続きの移動による避難と違って、海に隔てられた離島からの避難は空路と海路以外になく、日頃からの飛行機、船の確保は不可欠で、ピストン輸送を繰り返すことになる。離島民の避難に際しては海と空からの迅速な輸送をどう実現するか、12万人避難には大胆かつ綿密な計画の策定が必要だ。
来年早々に台湾総統選が行われることもあり、台湾有事のリスクは高まるとみられる。米国はロシアの侵略に対してウクライナ支援を継続しており、さらにハマスがイスラエルを攻撃したことから空母打撃群をイスラエル近海に派遣した。その分、米軍は極東から力を取られると考えられる。
国民保護法が2004年に制定されながら、離島民の避難計画が20年も手付かずだったことは、遅い対応だ。法整備はされても具体的に有事にどう臨むかの態勢が取れなければ、仏作って魂入れずだ。
中国は1996年、李登輝氏が当選した台湾総統選に対して、台湾海峡にミサイルを撃ち込む軍事的威嚇を行い、米国は空母を派遣した。わが国では周辺事態法を99年に制定し、わが国周辺の武力紛争に対して自衛隊が米軍の後方支援を行い、日米安保条約を効果的に運用できるように法整備を行った。その後、有事立法論議が高まり、2003年に武力攻撃事態法が、翌年に国民保護法が成立した。
まさに台湾有事は日本有事と言われる通りだ。国民保護法で規定している国や自治体による住民避難の措置は、「武力攻撃事態」やその前の段階の「予測事態」だが、「予測事態」をより早く察知し、住民避難措置を判断すべきだ。
着実に訓練の実施を
また、ロシアのウクライナ侵略で中国の台湾武力侵攻のリスクがわが国でも認識され、有権者の国防感覚の高まりを背景に政府は昨年12月、国家安全保障戦略・国家防衛戦略・防衛力整備計画の防衛3文書改定を閣議決定した。
この中で、有事も念頭に置いた国内での対応能力の強化、住民の迅速な避難の実施、避難施設の確保、避難訓練など国民保護の体制強化を謳(うた)っている。着実に住民避難計画を策定し、避難訓練の実施に移してほしい。