【社説】性別変更要件 適合手術は公益にかなう

性別適合手術を受けなくても、戸籍上の性別は変えることができる――。家事審判で、そんな司法判断が初めて出た。

だが、この判断は、体が女性のまま「男性」(逆もあり得る)になれることを意味するもので、たとえ性同一性障害という条件が付いているとはいえ、公共の利益に反する判断というほかない。事実上「同性婚」に道を開くことでもある。

家裁支部が「違憲」判決

性同一性障害者が当人の望む性で暮らせるよう社会制度を変えようとする運動が起きて以来、わが国では生物学上の男性が女性スペースを使用することに対する女性の不安が高まっている。今回の判決は、こうした国民意識から乖離(かいり)した司法判断と言わざるを得ない。

現行の性同一性障害特例法は、戸籍上の性別変更に生殖能力を永続的に欠くことを要件の一つとする。これは事実上、手術を受けることを意味するが、健康上の理由から手術を受けられない人が存在するだけでなく、体に重い負担を掛けることになり「違憲」との声もある。最高裁大法廷は合憲性について年内にも判断を示す見通しだ。

最高裁判断を前に、手術要件は「違憲」であり無効とする決定を下したのは静岡家裁浜松支部。浜松市に住む申立人(48)は生物学的には女性だが、40歳で性同一性障害と診断された。その後、男性ホルモンの投与や乳房の切除を行い、現在は女性のパートナーがいる。

判決を受け、申立人カップルはいずれ婚姻届を出すつもりだという。戸籍上、女性から「男性」になれば当然、女性と婚姻届を出せることになる。事実上の「同性婚」と言っていい。

浜松市の申立人の場合、女性から男性への戸籍変更だが、男性から女性への変更の場合、女性トイレ・更衣室などの女性スペースの使用、またスポーツの女子競技への参加を拒否することが難しくなろう。手術なしの戸籍変更を認めたのは、本人の意思に反する手術が個人の自由を制約するためで、つまり人権尊重の視点からだった。もし、女子トイレ使用や女子スポーツ参加を拒否すれば、それこそ人権侵害となってしまう。

トランスジェンダー(男性)の女子スポーツ参加を巡っては、海外で大きな問題になっている。身体能力で勝る“元男性”選手が女子選手を破って優勝するケースが出ている。女子選手にとっては五輪出場の夢が絶たれたり、大学の奨学金が得られなくなったりするので人生への影響が大きい。

手術なしの性別変更に対しては、特に女性団体が強く反発。女性が不安を感じ、法的な秩序が混乱するとして、手術要件は必要と訴える署名約1万5000人分を最高裁に提出した。

 子供や社会への影響甚大

さらに問題なのは、生物学的な同性カップルの婚姻が認められれば、生殖補助医療を使った出産も可能となる。身体女性の「父親」(逆もあり得る)が誕生することになり、生まれた子供への影響、そして社会混乱は甚大だ。手術要件は「合理性を欠く」とした静岡家裁浜松支部の判断は、公益の観点から到底納得できるものではない。

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