【社説】藤井八冠誕生 異次元の偉業を称えたい

王座を奪取し、史上初の全八大タイトル制覇に笑顔の藤井聡太八冠=11日午後、京都市東山区

将棋の藤井聡太七冠(竜王・名人・王位・叡王・棋王・王将・棋聖)が、第71期王座戦5番勝負の第4局で永瀬拓矢王座を破り、史上初めて全八大タイトルを制覇した。異次元の偉業を心から称(たた)えたい。

向かうところ敵なし

将棋のタイトルは、2017年に叡王戦が加わって八つになり、全冠制覇は八冠時代では初めて。藤井八冠は今年6月に名人になって七冠を達成し、残るは王座だけとなっていた。

藤井八冠は早くからその才能が注目され、14歳2カ月でプロの四段昇段、17歳11カ月で初タイトル獲得など幾多の史上最年少記録を打ち立ててきた。今回の八大タイトル制覇は21歳2カ月での快挙である。出場したタイトル戦は全て制し、獲得したタイトルは通算18期となるなど向かうところ敵なしだ。

将棋界には、大山康晴十五世名人のタイトル戦連続出場50回や中原誠十六世名人の年度最高勝率8割5分5厘、羽生善治九段の通算獲得タイトル99期など、これまでは更新が難しいと思われていた大記録がある。しかし藤井八冠であれば、いずれ塗り替えるのではないかとの期待が高まる。

異次元の強さの秘訣(ひけつ)は、先を読む力だ。指すべき手を早く正確に発見する能力は詰め将棋によって養われた。王座戦では永瀬前王座の得意な局面に誘導され、苦しむ場面もあったが、それでも勝ち切ったのは未知の局面への対応力がずばぬけているからだろう。かつて七冠全冠を制覇し、現在は日本将棋連盟の会長を務める羽生九段は「継続した努力、卓越したセンス、モチベーション、体力、時の運、全てが合致した前人未到の金字塔」と藤井八冠の偉業を称えた。

一方、藤井八冠は「まだまだだと思うので、引き続き実力を付けていくことが必要かなと思う」と述べた。現在は八冠防衛に向け、竜王戦で挑戦者の伊藤匠七段との七番勝負に臨んでいる。どこまで八冠を保持できるか楽しみだ。

今年は米大リーグ・エンゼルスの大谷翔平選手が日本人初の本塁打王に輝くなど、若き天才らの活躍に希望と勇気をもらった人は多いだろう。藤井八冠の謙虚な性格や求道者的なたたずまいも大谷選手と重なるところがある。師匠の杉本昌隆八段は「風格は出てきたが、名誉欲や金銭欲はない。浮かれたりおごったりするところが全くない」と述べている。

藤井八冠が将棋の人気向上に果たした役割は大きい。藤井八冠が対局中に食べたスイーツが売り切れになるなど、将棋のルールを知らない人でも将棋界に関心を持つようになった。子供に将棋を習わせる保護者も増えている。

ライバルの出現にも期待

藤井八冠を脅かすようなライバルの出現にも期待したい。かつての将棋界は、大山名人と兄弟子の升田幸三・実力制第四代名人との死闘など多くのライバル物語で盛り上がった。

子供の頃に将棋大会で藤井八冠を負かして泣かせたエピソードを持つ同い年の伊藤七段や、タイトルを奪われた永瀬前王座をはじめ他の棋士らの奮起を促したい。

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