訪米した木原稔防衛相はオースティン米国防長官と会談し、米国の巡航ミサイル「トマホーク」の取得を当初の計画から1年前倒しし、2025年度からとすることで合意した。
1年前倒しで取得へ
政府は昨年12月に改定した安全保障関連3文書で反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有を新たに盛り込み、敵の射程圏外から攻撃できる「スタンド・オフ防衛能力」の整備を急いでいる。これまでの計画では、12式地対艦誘導弾などの国産ミサイルを改修し、射程の伸びた改良型を26年度に導入配備するとともに、26~27年度に最新型のトマホーク「ブロック5」を米国から取得する予定であった。
しかし抑止力の強化を急ぐ必要があると判断、トマホークの前倒し取得に踏み切ったものである。1年前倒しとなるため、25年度に取得するトマホークは1世代前の「ブロック4」になるが、射程など性能は「ブロック5」とほぼ同等で十分な機能を有しており問題はない。
日本を取り巻く国際情勢は、緊迫の度を増している。台湾周辺では中国軍の動きが活発化しており、先月は24時間で延べ103機の中国の戦闘機が飛行し、また空母「山東」との訓練を実施するなど威嚇を繰り返している。27年までに習近平政権が台湾侵攻に踏み切る可能性も指摘されるなど、来年1月の台湾総統選を控え、中台の緊張は高まるばかりだ。北に目を向ければ、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記が訪露し、プーチン大統領と会談。今後両国が核・ミサイルなど軍事面で協力関係を進めていくことが懸念される。
一方、来年大統領選が行われる米国では内政に関心が集中し、外交政策や同盟関係は手薄になりがちだ。米国の対外コミットメントが低下する隙を突いて権威主義国が挑戦的な行動に出る事態も想定しておかねばならない。厳しい国際情勢を踏まえ、反撃能力を一刻も早く確保して防衛体制を万全なものとなすことはわが国喫緊の課題であり、トマホークの早期取得は必要かつ適切な措置と言える。国産ミサイルの改修・開発事業についても前倒しを図るべきだ。
ただしトマホーク取得計画変更には、幾つかの課題がある。トマホークは海上自衛隊のイージス艦に搭載されるが、取得年度が早まるので、それに合わせて艦艇の改修作業を急がねばならない。また長射程のミサイルを有効に運用するためには、米国から攻撃目標などの情報を提供してもらう必要があるが、米側は日本のサイバー対策の遅れを懸念している。日米の情報共有体制を整える上で、わが国の情報保全やサイバーセキュリティー能力を早急に強化することが大前提となる。
連携強化へ詰めの協議を
さらに反撃能力の発揮には、自衛隊と米軍の円滑な連携が求められる。防衛省は陸海空自衛隊の運用を一元的に指揮する常設の統合司令部を24年度末に設置する方針で、指揮統制や連携要領の在り方についても日米で詰めた協議が必要となる。こうした課題を克服し、トマホークの早期取得がわが国の抑止力強化に資するよう政府には万全を期してもらいたい。