【社説】米下院議長解任 速やかな連邦議会の正常化を

米国史上、初めて下院議長が解任された。連邦議会の混乱は当面避けられないとみられるが、米国の政治状況は世界に影響し、既に市場では米金利上昇に追い打ちをかけて株安を招いた。また、ロシアに侵略されているウクライナへの支援が今後も続くのか不安視されている。可及的速やかに正常化することを望みたい。

共和党内の対立顕在化

昨年の中間選挙で下院多数派を奪還した野党共和党は、1月の議長選出の段階で党内対立が顕在化していた。15回も繰り返された異例の投票でマッカーシー下院議員を議長に選出したものの、まとまりに欠けていた。

解任動議を提出した共和党のゲーツ議員は、提出前にトランプ前大統領と話したという。ゲーツ氏はフロリダ州1区の選出だ。同州28の小選挙区で共和党は20議席を有しており、同党の大統領予備選レースで断トツのトランプ氏の支持層への意識も強く働いているだろう。解任に賛成した共和党議員はゲーツ氏を含む8人で、事前の3人程度との予想より多かった。

下院での予算を巡る与野党の攻防は激しさを増していた。共和党は10月に始まる新会計年度を前に予算案を人質に取り、バイデン民主党政権を「政府機関閉鎖」の寸前まで追い込んだ。しかし、閉鎖を回避したい民主党との条件闘争に移ると一部の強硬派議員の不満が噴出した。

政府閉鎖が目前となった先月30日夜、政府支出を45日間可能にする「つなぎ予算」を採決する一時的な妥協に落ち着いたが、この際、下院でマッカーシー氏はウクライナ追加支援を除外して共和党強硬派の理解を得ようとした。しかし、トランプ前政権時代の主要政策だった国境の警備強化策を盛り込まないことで強硬派の不満は残った上、さらなる予算規模の縮小を求める訴えもある。

政治に妥協は付きものだが、社会の分断が懸念される米国では、妥協をも許さない空気が共和党強硬派や民主党左派の鋭い対立から生じている。政府閉鎖が回避された45日間の行方は不透明だ。共和党は下院議長解任で党内に怨恨を残し、下院では再び議長を選出するのも難航が予想される。11月半ばのつなぎ予算期限までに本予算案が成立するかは予断を許さない。

中でも下院共和党はウクライナ支援をつなぎ予算からあっさり除外しており、「ウクライナ疲れ」が政権批判の材料にされていることに不安を禁じ得ない。国連総会のため訪米したウクライナのゼレンスキー大統領をバイデン大統領は激励し、支援の継続を約束した。

だが、来年の大統領選挙を前にバイデン氏に対する弾劾に向けた下院の調査が始まるなど、政争が激しくなっている。米国の政争が民主・共和の与野党のみならず、共和党内に及んでいる状況は深刻だ。

ウクライナ支援で一致を

ロシアに対する国際社会の団結の欠如にゼレンスキー氏が危機感を抱いたが、ロシアの侵略を現状で食い止めているのは、バイデン政権の支援によるところが大きい。

米国には超党派で一致した対応を願いたい。

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