米大リーグ・エンゼルスの大谷翔平選手が、日本人選手として初めて本塁打王に輝いた。投手と打者の二刀流での達成であり、大リーグを頂点とする野球の常識をも打ち破るものだ。その偉業を称(たた)えたい。
日本人初の偉業達成
右肘を痛め9月3日を最後に試合を欠場していた大谷選手だが、今シーズン44本塁打を放った。アメリカン・リーグの全試合が終了し、2位のアドリス・ガルシア選手(レンジャーズ)に5本差をつけ頂点に立った。
これまで大リーグで野手として、イチロー選手が2度首位打者に輝き、2004年には年間最多安打記録を塗り替えるなど大活躍した。松井秀喜選手も、その活躍は日米のファンに忘れ難い印象を残してきた。
しかしこれまでどの日本人選手も手の届かなかった本塁打王のタイトルには、特別な重みがある。本塁打は野球の華であり、ファンを最も興奮させる。大リーグで、体格に勝る外国人選手を相手に日本人選手がこのタイトルを獲得するのは至難の業とみられていた。大谷選手の本塁打王獲得は、そういう常識を打ち破るものだ。
このような偉業を達成した大谷選手だが、「MLB(大リーグ)でこれまで活躍された偉大な日本人選手たちのことを考えると大変恐縮であり、光栄なことです」と球団を通じコメントを出した。偉業達成に驕(おご)ることのない、謙虚な姿勢が滲(にじ)み出ている。「この目標を達成するのに協力してくれたチームメート、コーチングスタッフ、ファンに感謝します」と、周囲の人々への感謝も忘れない。
大谷選手のタイトル獲得は、日本人離れした恵まれた体力があってのことだ。だが、それだけではない。打者としての絶え間ない進化の証明とも言える。外角高めなど、苦手としていたゾーンを少しずつ克服していった成果だ。その背景には、日ごろの練習と研鑽(けんさん)、飽くなき向上心がある。
本塁打王獲得が、投手として2桁勝利を成す中で達成されたというのは、大リーグの常識も打ち破るものだ。大リーグの歴史を塗り替える偉業が、日本人選手によってなされたことは誇らしい。
チームの勝利を何よりも優先し、チームメートやファンへの気遣いを忘れない姿勢、それらが自然に出てくることが米国民の心を掴(つか)んだ。投打の二刀流だけでなく、そういう姿でも大リーグに新風を吹き込んだ。
日米の野球少年の心には、目標を高く持って夢を追い、それを実現させていく大谷選手の姿が、しっかりと刻み込まれた。野球に限らず日本の子供たちが、将来世界を舞台に活躍するきっかけにもなり得るだろう。
さらなる活躍を期待
9月19日に行った右肘手術の経過と今後の見通しが気になるところだ。担当した医師は、24年の開幕日には制限なく打者として出場できるとしているが、投手としては再来年からという。来年、投打の二刀流を見られないのは残念だが、無理をしないで万全の状態に戻すことが重要だ。来年は打撃に専念できる分、打の方でさらなる活躍を期待したい。