中国が東京電力福島第1原発の処理水放出で、日本産水産物の禁輸を始めて1カ月以上が経過した。漁獲量の多くを中国への輸出に回していたホタテやナマコ漁は大きな打撃を受けている。しかし、これは中国以外への販路拡大の好機と捉えて対処すべきである。
中国の政治的な措置
中国は日本の水産物の最大の輸出先である。中でもホタテは中国と香港を合わせると35%を占めている。中国料理でよく使われるホタテだが、輸出量が多いのは、中国でいったんむき身に加工し、米国や欧州に輸出しているからだ。
中国で高級食材として珍重されるナマコに至っては中国と香港で80%を占めている。日本ではそれほどの消費が期待されないため、青森県の横浜町漁協など当面、漁を停止するところが出てきている。水産業界では動揺が広がっているというが、むしろこれを機に、中国依存から新しい販路の拡大へと大きく舵(かじ)を切るべきである。
福島第1原発の処理水放出はIAEA(国際原子力機関)が承認し、近隣の韓国を含む各国も理解を示している。中国の突出した禁輸措置は、非科学的で理不尽なものだ。放出後、水産庁は福島県沖で継続的に調査を行っているが、処理水に含まれる放射性物質トリチウムは検出されていない。
政府は、WTO(世界貿易機関)に中国の不当性を訴え、提訴すべきである。中国の禁輸措置は明らかに政治的なものだ。日本政府が提訴した場合、中国が国内の日系企業などに理不尽な報復を行うことを恐れているとすれば、ますます中国を増長させるだけである。
これまでの中国依存が大き過ぎたのである。中国は経済、貿易さらにはスポーツや文化までも政治的に利用する国であり、国際ルールを平気で無視することは、南シナ海での領有権問題を巡るオランダ・ハーグの仲裁裁判所判決への対応などで明らかだ。そういう国をサプライチェーン(供給網)の要に置くことは高いリスクを伴う。
政府は先月初め、水産業支援策として予備費207億円の支出を新たに決め、計800億円の既存基金と合わせ、総額を1007億円に拡大した。その中心は、中国依存からの脱却である。輸出総額の5割が中国向けだったホタテについては、日本国内で殻むき機を導入する経費の3分の2を補助する。
2022年、中国経由で日本産ホタテを147億円輸入した米国の駐日大使館は、ベトナムや台湾の水産加工業者の情報を日本の水産業者に提供するなど支援の動きを見せている。国内や海外の新たな加工施設の確保にはある程度の時間がかかるだろう。しかし長い目で見れば、日本の水産業をより持続的な産業に脱皮させることになる。
素晴らしさに注目したい
北海道の水産会社が、倉庫に積み上がったホタテをネット販売したところ、注文が殺到するなど、国民の支援の動きも起きている。こうした動きは、世界の大勢とは逆に水産物の消費が減少傾向にある日本国民が、再び水産物の素晴らしさに目を向ける機会ともなりうる。