【社説】性別変更の要件 適合手術は維持すべきだ

体は男性でも、戸籍上は「女性」になることができる――。こんな制度上の大変革が起きる可能性が出ている。性同一性障害者が戸籍上の性別を変更する上で、現行法が要件とする性別適合手術の合憲性について、最高裁大法廷が年内にも判断を示す見通しだ。そのための弁論も開かれた。

当事者の苦悩への配慮は当然だが、もし要件から手術が除外されれば、社会混乱は甚大だ。裁判官には多角的な観点から冷静な判断を求めたい。

最高裁が改めて判断へ

2004年施行の性同一性障害特例法は、戸籍上の変更要件として五つ規定する。①18歳以上②未婚③未成年の子がいない④生殖機能を永続的に欠く⑤移行する性別と外観が似ている――だ。性別適合手術は④と⑤を意味する。これまで1万人超が手術を受け性別変更している。

だが健康上の理由などから、性別変更したくとも手術を受けられない当事者が存在する。この家事審判の申立人(男性)は、長年のホルモン療法で生殖機能が低下している。この場合、外見の変化が認められることが多いが、戸籍上の女性への変更を求める場合は⑤の要件から陰茎切除が必要だ。申立人は身体的、経済的に負担が大きい手術は受けていないため、家裁と高裁支部は要件を満たしていないとして退けた。

同様の審判は、最高裁小法廷が19年に1度行っている。この時は、生殖機能を残したのでは社会混乱が生じるとして「合憲」判断を示した。子供が生まれれば、男性生殖器を付けた「母親」(逆もあり得る)が出現することになり、子供への影響はあまりに大きい。

現在でさえ、トランス男性(体は女性)と女性とのカップルが第三者(ゲイ)から精子提供を受け、出産・子育てをしているケースがある。性別変更要件から手術が撤廃されれば、こうした家庭で育つ子供が増えるだけでなく、「同性婚」に道を開くことにもなろう。

また、男性生殖器を付けていても戸籍上の「女性」と認めた場合、風呂や更衣室、トイレなどの女性スペース使用はどうなるのか。もし使用を拒めば、それこそ「差別」になってしまう。トランスジェンダーを装った男が女風呂や女性トイレに侵入する事件が起きているが、類似事件を増やしてしまう懸念もあり、社会混乱は必至である。

だから4年前、最高裁小法廷は妥当な判断を示したと言える。しかし、裁判官4人のうち2人が「違憲の疑いが生じている」との補足意見を付けた。そこで、大法廷は社会情勢の変化を踏まえて改めて判断を示すことにしたのだ。

女性の不安を軽視するな

近年、当事者の権利を過剰に擁護するマスコミの影響で、性的少数者に対する日本人の考え方に変化が生まれているのは事実だろう。しかし、そこだけを見ていては社会状況を見誤る。男性生殖器を付けても性別変更が可能という、これまで考えもしなかった事態が現実味を帯びてきたことで、逆に国民、特に女性の不安は高まっているのだ。最高裁大法廷はこの状況変化を軽く考えるべきでない。

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