国立がん研究センター東病院の医療機器使用で便宜を図った見返りに賄賂を受け取ったとして、警視庁捜査2課は収賄容疑で元肝胆膵(すい)内科医長の医師を逮捕した。
患者の治療に必要な機器を賄賂によって選定する医師に、医療に携わる資格はない。
機器使用の見返りに賄賂
逮捕容疑は2021年5月ごろ、胆管が詰まった時の治療などに使う医療機器「ステント」について、特定メーカーの製品を多く使う見返りに、現金約170万円を自身の口座に振り込ませ、受領した疑い。医師の医長就任後、このメーカーのステント使用数は全体の5割超まで急増した。
医師はステントの使用感や有効性などの調査に協力する対価として、1本当たり1万円をメーカーから受け取る契約を結んでいたが、調査の実態はなかった。それにもかかわらず、前年にも百数十万円を受領したことが判明している。
この事件では、贈賄容疑でメーカーの元社長も逮捕された。2人は数年にわたって取引関係にあったとみられており、徹底解明を求めたい。
国立がん研究センターを巡っては昨年も、中央病院の50代の医師が病院の医療機器に関連するシステムの導入で特定の業者が受注できるよう便宜を図った見返りに、タブレット端末などを賄賂として受け取ったとして神奈川県警に逮捕された。今年には有罪判決が確定している。
15年に国立研究開発法人に移行した国立がん研究センターの職員は「みなし公務員」という立場だ。みなし公務員とは、公務員ではないが、職務の内容が公共性・公益性の高いものであるため、法令によって公務員に準じると見なされ、収賄罪の対象ともなる。
医師はメーカーと調査契約を結ぶ際、病院側に兼業届を提出していたという。勤務先の許可を得ることによって、正当な契約だと装った疑いもある。民間の医師以上に社会への貢献が求められる立場であるにもかかわらず、偽装工作をしてまで私腹を肥やしていたとすれば極めて悪質である。
メーカー側でも医師への不正な資金提供が常態化していた。こうした手法は営業担当者らのアイデアで、元社長も承認していたという。医療機器メーカーと医師の癒着は、病気の治療を求める患者を二の次とするもので許し難い。
こうした汚職はかつても相次いだ。08年10月には、医療機器販売会社から約260万円を受領した防衛医科大学校病院の眼科部長が収賄容疑で警視庁に逮捕された。
21年1月には、医療機器メーカーに自身が代表を務める団体に200万円を振り込ませた三重大医学部付属病院の医師が第三者供賄容疑で愛知県警などに逮捕されている。癒着が生じやすい環境が存在するのであれば、放置できない。
法令順守を徹底せよ
国立がん研究センターはがん征圧の中核拠点と位置付けられている。
重要な役割を担う以上、コンプライアンス(法令順守)も徹底しなければならない。