政府の個人情報保護委員会(個情委)が、マイナンバーにひも付ける「公金受取口座」の誤登録問題でデジタル庁を行政指導した。浮かび上がったのは、デジタル庁のずさんな対応だ。
大臣への報告遅れる
この問題では、他人の情報がひも付けられたミスは約940件確認された。2022年7月に東京都豊島区で最初に発覚。盛岡市や福島市でも見つかり、それぞれデジタル庁に報告された。だが庁内での情報共有が遅れ、河野太郎デジタル相に伝わったのは23年5月だった。
最初の発覚から河野氏への報告まで10カ月もかかっている。個人情報が漏洩(ろうえい)したことへの危機感が欠けていたと言わざるを得ない。個情委はデジタル庁が周知を怠ったと指摘し、個人情報保護法に基づく漏洩の報告対象に当たらないと「誤認していた」と結論付けた。庁内で早期にミスの情報を共有し、市区町村に伝えていれば、誤登録の拡大を防げたのではないか。
ひも付けはデジタル庁が管理するシステムを使い、自治体窓口で本人や職員らが登録する。ミスの主な原因は、共用端末で前の人がログアウトしないまま次の人が手続きをしたことだった。誤登録が公表された際、河野氏は「どうしても避けられない人為的なミスがある」と述べたが、個情委は誤操作発生を前提に対策を講じるべきだったとした上で「本人認証に関する措置の継続的な検討が不十分だった」と断じた。河野氏とデジタル庁は重く受け止めるべきだ。
21年9月に発足したデジタル庁は、約1000人の職員中、半数近くが民間出身で、情報集約や意思決定の在り方が曖昧だとの指摘があった。このような組織上の問題が、マイナンバーに関わるトラブルを招いたとみていい。公金受取口座だけでなく、健康保険証とマイナンバーカードを一体化した「マイナ保険証」や障害者手帳とのひも付けでも誤登録が続出している。
今回の内閣改造でデジタル相を続投することになった河野氏は、24年秋に現行の健康保険証を廃止する決定を主導した。マイナ保険証への切り替えを急ぐあまり、現場の負担が増大し、個人情報漏洩につながったことは否めない。
マイナカードを持とうとしない人の間には、漏洩への警戒感がある。結果的に、こうした不安が的中したと言えよう。デジタル庁は新型コロナウイルス禍で露呈したデジタル化の遅れを取り戻そうと、行政手続きのオンライン化などに取り組んできた。しかし、そのカギを握るマイナンバー制度でトラブルが続出するようでは、国民の信頼は得られない。
危機管理体制を立て直せ
時事通信の9月の世論調査では、このトラブルへの政府の対応を「評価しない」が54・6%に上り、「評価する」の20・1%を大きく上回った。
河野氏やデジタル庁が個人情報漏洩に効果的な対応を取れなければ、国民の不安や不信感を増大させるだけでなく、同盟国や友好国の信頼を損なうことにもなりかねない。深刻な状況にあることを認識し、行政のデジタル化に向けて危機管理体制を立て直す必要がある。