日本初の月面着陸を目指す小型月面探査機「SLIM(スリム)」などを搭載したH2Aロケット47号機の打ち上げが成功した。後継の新型ロケット「H3」失敗などトラブル続きで日本の宇宙開発を蔽(おお)う暗雲を打ち払う見事な成功である。
これを機にH3打ち上げ再開など停滞した宇宙開発に弾みを付けたい。
H3失敗後の打ち上げ
「H3失敗後の打ち上げで、緊張感とプレッシャーを感じてきた。無事成功し、本当にほっとしている」――。今回の打ち上げで責任者を務めた三菱重工業の徳永建・宇宙事業部技師長の打ち上げ後の会見である。
同氏がこうコメントするのも頷(うなず)ける。H3初号機が3月に失敗して以降、大型ロケットの打ち上げは今回が初めて。しかも、失敗の原因が実績のあるH2Aと基本構造が共通化している2段ロケットにあったため、下手をすれば「共倒れ」の懸念もあり、ひときわ神経を使わざるを得なかったからである。
原因究明に当たり、宇宙航空研究開発機構(JAXA)では、OBを含め100人態勢でチームを結成し総力戦で取り組んだ。飛行データの分析により、第2段エンジンで起きた電気系統の不具合が原因で、エンジンに着火しなかったことが分かった。ショートが起きた可能性のある部位を数カ所にまで特定。さらにH3固有の要因を切り分けるなどして対策を進め、天候の要因で打ち上げは3度延期されたが、H2Aの遅れを最低限にとどめたのである。まずは関係者の努力を多としたい。
打ち上げの成功で、H2Aの信頼性向上はもちろん、H3失敗の原因究明もかなりの程度進んだとみていいだろう。H3打ち上げへ大きな前進である。
国産ロケットを巡っては、このところトラブルが相次いだ。2022年10月に固体燃料ロケット「イプシロン」6号機が発射直後の異常で破壊指令が出されたのをはじめ、今年2月はH3初号機が打ち上げ直前で中止、3月は前述した同機の失敗、7月にはイプシロンSのエンジン試験での爆発など不調が続き、日本の宇宙開発の前途に暗雲が重く垂れ込めていた。
今回の打ち上げ成功はこの暗雲を見事に吹き払い、沈滞ムードに活を入れるものである。国際的にも高い評価を受けた小惑星探査機「はやぶさ」「はやぶさ2」などの成果も、着実な打ち上げができてこそである。
H3は打ち上げ成功率約98%という世界トップクラスのH2Aの後継基幹ロケットとして、国際貢献はもちろん、コスト低減を図り商業衛星打ち上げ市場への本格的な参入を目指している。出遅れ感は否めないが、自信を持って慎重かつ果敢に取り組んでいってもらいたい。
高度な技術の月着陸期待
今回の打ち上げでさらに意義深いのはSLIMである。「はやぶさ」などで培った画像照合の技術を高度化し、狙いとする100㍍以内のピンポイント着陸が成功すれば世界初で、日本の新たなお家芸となるもの。取得データは米アルテミス計画でも活用される見通しであり、年明け以降に予定の見事な着陸を期待したい。