政府は中国が日本の水産物を全面禁輸したことを受け、新たに207億円の緊急支援策を決定した。苦境に立つ水産業への当面の支援は当然である。しかし、中国の禁輸措置は科学的合理的な根拠がないものだ。WTO(世界貿易機関)に速やかに提訴すべきである。
政府が水産業を支援
政府が予備費から投じる新たな支援策は、中国への輸出割合が大きいホタテ貝などの販路開拓や加工設備の国内導入などが主だ。日本国内で生産されるホタテ貝の35%、ナマコの73%は、中国・香港に輸出されている。こうした品目の一時買い取り・保管、中国でのホタテ貝のむき身加工を国内で行うための機器導入経費の補助や人材確保に充てられる。
新たな市場の開拓にも投入される。市場開拓は日本の水産業にとって将来的に大きなプラスになる。ピンチをチャンスに変える絶好の機会としたい。
支援額は風評対策や漁業者の事業継続支援のため既に設けられている800億円の基金と合わせ1007億円となる。
岸田文雄首相は「国民の皆さまにも理解と支援をお願いしたい」と述べ、日本産水産物の消費拡大を呼び掛けた。世界的にも評価の高い日本の水産物の消費を促すため、官民が連携して国民運動を展開すべきである。
とりわけ風評被害を受けやすい福島県産の水産物は、安全性をアピールするためにも積極的に消費するようにしたい。福島県・茨城県沿岸で獲(と)れる水産物は「常磐もの」と呼ばれて珍重されてきた。その質の高さは変わらない。中国が不当な禁輸措置に出ても、日本の水産業は揺るがないことを示すべきだ。
東京電力福島第1原発の処理水海洋放出は、国際原子力機関(IAEA)が「国際的な安全基準に合致している」と包括報告書に明記しており、国際機関および国際社会の理解を得ている。にもかかわらず中国当局は国民に科学的で正確な情報を伝えず、ただ「無責任」と日本を非難し続け、世論を煽(あお)っている。
一部を除き国際的理解を得ているにもかかわらず、中国が処理水放出を非難し続けるのは、日本への外交圧力のカードとして利用するのが狙いだ。
中国が日本の要望を少しでも聞き入れる可能性は極めて低い。日本産水産物の禁輸は科学的根拠に基づかない不当な措置であり、WTOに速やかに提訴すべきである。既に政治家や識者から提訴を求める声が上がっているが、政府がためらえば、日本は自国の正当な利益を守るために行動を起こせない情けない国として、国際社会からも軽蔑の眼で見られるだろう。
大きな誤りと悟らせよ
中国外務省の汪文●副報道局長は、日本水産物の禁輸措置について「WTOの関連規定に基づいており、完全に正当かつ合理的だ」と主張し、日本国内のWTO提訴の動きを牽制(けんせい)した。牽制するのは、それを恐れているためである。
中国は、日本政府のこれまでの弱腰の対中外交姿勢から、強い対抗措置を取ってこないと踏んで、理不尽な禁輸を行っている。それが大きな誤りであることを悟らせるべきである。
●=文の右に武