トップオピニオン社説【社説】防衛費概算要求 反撃能力確保に必要な増額

【社説】防衛費概算要求 反撃能力確保に必要な増額

防衛省は来年度予算概算要求として、7兆7385億円を計上した。今年度当初予算を約9000億円上回り、過去最大の要求額となった。

日本を大きく上回る中国

内訳を見ると、反撃能力の確保やミサイル防衛に重点が置かれ、敵の射程圏外から攻撃できる「スタンド・オフ防衛能力」や、ミサイル、航空機の脅威に対処する「統合防空ミサイル防衛能力」の強化に約2兆円が充てられた。弾薬確保(約9000億円)や南西諸島・離島防衛(約4000億円)、英伊との次期戦闘機共同開発や常設の統合司令部創設なども盛り込まれた。

防衛費の増額に関して「際限なき軍拡」とか「身の丈を超えた膨張」など一部メディアが批判的に報じている。だが、わが国が置かれている厳しい国際環境から目を背けた根拠なき主張と言わざるを得ない。

核・ミサイル開発を加速させる北朝鮮や、覇権主義的行動を強め領土拡大の野心をあらわにする中国、中朝との連携で威圧行動を重ね、ウクライナ戦争の苦境を切り抜けようとするロシアなど周辺諸国のわが国への脅威は戦後最も高くなっている。冷戦後、日本の防衛費が低く抑えられてきたのと対照的に、これらの国々は軍事費を増大させている。特に中国は毎年高い伸び率を記録し、2022年度は日本の5倍以上に上る。

日本の防衛費は対国内総生産(GDP)比で、先進7カ国(G7)諸国やオーストラリア、韓国の中で最も低い。安全保障関連3文書は27年度に対GDP比2%への増額をうたう。中露朝の脅威に対処し、隙の無い防衛態勢を短期間で築くには、防衛費増額が必要不可欠である。

今後、年末に来年度防衛費の政府案が確定するが、戦後最大規模となる防衛力整備の進め方について留意すべき点を指摘したい。ミサイル整備を例に挙げると、12式地対艦誘導弾能力向上型の量産・開発や極超音速誘導弾の開発など数多くのミサイルの取得や開発事業を数年度にわたり同時並行で進めなければならない。限られたスタッフの下で多数の事業に取り組み、多額の予算を予定通り執行するには、事業計画の適切な管理や効率的な運営に加え、事業間の優先順位の明確化も必要だ。

防衛力の機能発揮には、所要の人員確保が大前提となる。陸海空自衛隊の充足率はいずれも90%を超えているが、任期制自衛官が多数を占める下位の階級「士」の充足率は76%と低い。最新の装備品の導入や開発で抑止力向上を図っても、それを操作・運用する自衛官が足りなければ張り子の虎となってしまう。少子化が進む中、第一線部隊の主力を成す若い精強な自衛官の確保は、防衛力を維持・整備する上で最重要の課題である。

多数かつ多様な人材を

そのためには自衛隊を魅力ある職場にすることが肝要だ。セクハラ、パワハラの不祥事根絶は論を待たず、多数かつ多様な人材の確保を目指し人事制度見直しを急ぐとともに、自衛官の処遇改善、老朽化した隊舎宿舎の建て替えなど福利厚生にも必要な予算を充てるべきだ。「人は石垣、人は城」である。正面装備だけが防衛費の使途ではない。

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