【社説】米軍の人事停滞 混乱もたらすリベラル政策

米国では、陸軍、海軍、海兵隊の制服組トップの正式な後任が決まらない異例の事態となっている。人事案が上院の承認を得られないためだ。

米軍のリーダー不在が、米国や同盟国などの安全保障に影響を及ぼすことが懸念される。

300人超の承認棚上げ

制服組トップのうち、海軍作戦部長はリサ・フランケティ大将が指名されている。上院で承認されれば、女性初の海軍作戦部長および統合参謀本部メンバーとなる。

ところが、陸海空軍と海兵隊の司令官や上級将校ら合わせて300人を超す指名承認が棚上げ状態に陥っている。いずれも前任者の任期切れに伴う昇進人事で、新任者は全員バイデン大統領が指名。軍幹部の人事は通常、全会一致で承認される。国家の安全を守る軍の人事停滞は、極めて憂慮すべき事態だ。

承認が滞っているのは、野党共和党の一部議員が、米軍人らに人工妊娠中絶の関連費用を支給するバイデン政権の政策に反対しているためだ。連邦最高裁は昨年6月、中絶を憲法上の権利とした1973年の「ロー対ウェイド判決」を覆すことを決定。中絶の是非については、個々の州の判断に委ねられることになった。

中絶を事実上禁止する州も出始める中、国防総省は女性兵士の権利を確保するため、他州で中絶手術を受ける場合に旅費を補助する制度を導入した。これに対し、共和党のトミー・タバービル上院議員は、国防総省の性と生殖に関する健康を巡る方針が法令違反だとの主張を展開している。

2024年の大統領選に向けて共和党が対決姿勢を強めているとはいえ、バイデン政権のリベラルな政策が軍の人事に混乱をもたらしているとすれば大きな問題だ。国防総省は米軍の統率、指揮に影響が及び、各部隊が必要な体制を維持できなくなると懸念を強めている。中国やロシアの脅威が増大する中、軍の活動を停滞させれば与党民主党の責任が問われよう。

一方、バイデン氏は経済面でも、中・低所得者層の底上げによる経済再生を目指し、大企業や富裕層に対する課税を強化する「バイデノミクス」を掲げている。リベラル色の強い政策であり、共和党との対立を激化させるものだ。巨額の政府支出が超インフレをもたらすとの批判も出ている。

バイデン政権の下では物価高が続いて国民の負担は増加。6月の世論調査では、6割以上の人がバイデン氏の経済政策を支持しないと回答した。健康面の不安もある中、バイデン氏が国民の支持をつなぎ止められるか疑問だ。

軌道修正もためらうな

キャンプデービッドで行われた日米韓首脳会談では、安全保障協力を「新たな高みに引き上げる」ことで合意したが、肝心の米軍の人事が停滞するようでは困る。

夏季休会明けの9月の議会では、予算案の審議で与野党対立が激しさを増すとみていい。速やかな人事案の承認や予算案の成立に向け、バイデン氏はリベラル政策の軌道修正もためらうべきではない。

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