北朝鮮が軍事偵察衛星の打ち上げに失敗した。5月に続く2回目の失敗だが、危険な挑発行為であることに変わりはなく、断じて容認できない。
背景に日米韓の連携強化
北朝鮮は北西部・東倉里から弾道ミサイル技術を使った物体を発射。発射された1発は複数に分離し、うち一つが沖縄本島と宮古島の間の上空を通過してフィリピンの東約600㌔の太平洋上に落ちた。
日本政府は全国瞬時警報システム(Jアラート)を沖縄県に発令し、避難を呼び掛けた。船舶や航空機などの被害情報は確認されていないが、危険極まりない挑発行為だ。弾道ミサイル技術の利用は国連安全保障理事会決議に違反しており、国際ルールを無視して地域の平和と安全を脅かすことは許されない。
朝鮮中央通信は、偵察衛星「万里鏡1号」を載せた新型ロケット「千里馬1型」を打ち上げ、ロケットの1、2段目は正常に飛行したものの、3段目の飛行中、非常爆破システムに異常が生じたと伝えた。1回目の失敗の原因となった2段目のエンジンの欠陥が改善されたことを示唆したものだ。
しかし、韓国政府によれば今回も2段目に異常があった可能性がある。北朝鮮は10月に3回目の打ち上げを強行する方針だが、これでは成功すまい。仮に成功しても実用化までの道のりは遠いとの見方が強い。
もちろん、油断は禁物だ。日本は、合同軍事演習を行っている米韓両国と緊密な連携を維持し、日米韓でミサイル警戒データを即時共有する仕組みの運用開始を急いでほしい。北朝鮮が失敗からわずか3カ月後に再び衛星を打ち上げた背景には、米キャンプデービッドで行われた日米韓首脳会談で3カ国の安全保障協力を「新たな高みに引き上げる」ことで合意したことへの警戒心もあろう。
もう一つ、9月9日に建国から75年の記念日を迎えるのを控え、軍事的成果を急いだこともある。食料難による飢餓が続いて経済面での成果が振るわない中、軍事面での実績を上げようとしたのだろうが、かえって打ち上げ失敗で金正恩朝鮮労働党総書記の威信に傷を付ける結果となったと言える。
正恩氏が2021年1月の党大会で軍事偵察衛星の開発を打ち出したのは、敵である米韓を監視する「目」を獲得したいと考えているからだ。しかし、国民を犠牲にして軍事力強化を図っても決して国家の発展にはつながるまい。
安保理が開催した北朝鮮の人権状況に関する公開会合では、北朝鮮が「国家の軍事機構と兵器製造能力を支える」ために、子供を含む国民に強制労働を課しているとの指摘があった。正恩氏を中心とする独裁体制を維持するため、国民の人権を侵害し、周辺国を危険にさらすことはあまりにも身勝手だ。
民主的価値観浸透させよ
北朝鮮を支えているのは、中国やロシアなどの権威主義国家だ。日米韓をはじめとする民主主義陣営は抑止力を強化するとともに、中露朝の強権体制の弱体化に向け、いかに自由や人権といった普遍的価値観を浸透させるか知恵を絞る必要がある。