英国の加入承認で初めて新たな国が参加することになった環太平洋連携協定(TPP)を巡っては、公正な経済秩序の構築や自由貿易の推進に向け、貿易・投資ルールの高い水準を維持することが何よりも重要だ。加入を申請している国・地域には厳正な審査を行うよう求めたい。
「威圧的行為」も審査対象
英国加入は7月、ニュージーランドで開かれた閣僚級の「TPP委員会」で認められた。これでTPP経済圏はアジア太平洋から欧州に広がり、12カ国の枠組みとなった。名目GDP(国内総生産)合計額が世界全体に占める割合は約15%になった。
現在焦点となっているのは、加入申請中の中国、台湾など6カ国・地域への対応だ。締約国側は、申請国が高水準の自由化ルールを受け入れる用意ができているか見極めた上で交渉を始める必要がある。
TPP参加国の一つであるオーストラリアを訪問した後藤茂之経済再生担当相は、ファレル貿易相との会談で、新規加入の是非について①TPPの高いレベルの基準維持②ルール順守に関する厳格なチェック③参加12カ国全ての同意――に基づいて判断することを確認。後藤氏は「威圧的な行為」も審査対象になるとの考えを改めて示した。
これを踏まえれば、中国は明らかに失格だ。中国の他国への経済的な威圧は目に余るものがある。日本に対しては、東京電力福島第1原発から生じる処理水を「汚染水」と決め付け、海洋放出の日程が決まったことを受けて日本産水産物などへの輸入規制を拡大する方針だ。
豪州との間でも、2020年に当時のモリソン政権が新型コロナウイルスの起源調査を求めたことへの報復として、豪州産の大麦やワインなどの輸入を制限。ワインには21年3月から最高218%の反ダンピング(不当廉売)関税を課しており、この影響で豪州ではボトル換算で28億本が余っている状況だ。中国はTPP加入で豪州に協力を迫っているが、ワインの輸入制限解除を交換条件にすることがあってはならない。
国有企業に補助金を拠出して公正な競争を阻害している中国が、TPPのルールを守れるかも疑問だ。ただ、経済関係の深い一部の参加国は中国の加入を支持している。巨大な市場に目を奪われ、ルールの水準を下げることは避けるべきだ。
中国は「一つの中国」論を盾に台湾のTPP加入を阻止する構えを見せている。半導体など先端技術に優れた台湾が中国に先駆けて加入し、国際競争力を高めることは最も避けたいことだからだ。中国は今後も自国の利益のため、TPP参加国への威圧を強めるだろうが、高い水準の自由貿易協定であるTPPを守り抜かなければならない。
米国復帰へ働き掛けを
一方、TPPを離脱した米国は、14カ国で構成する経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」を主導し、供給網の脱中国依存を進めている。しかし本来は、TPPのような自由貿易協定の締結によってなされることが望ましい。米国のTPP復帰は国内事情で当面難しいが、日本は復帰への働き掛けを続ける必要がある。