韓国の尹錫悦大統領は日本統治からの解放日である「光復節」の行事で演説し、日本を共産主義や全体主義と共闘するパートナーであると指摘し、過去の不幸な歴史への批判を封印した。歴史認識問題で日本との関係を悪化させた歴代大統領とは一線を画し、自由民主主義陣営の絆を強調した形だ。評価したい。
日本の後方基地が貢献
今回、尹氏の演説で目立ったのは共産主義、全体主義との闘いを鮮明にさせた点であろう。
尹氏は今年が朝鮮戦争休戦から70年になることを踏まえ、「自由民主主義国を選び追求した大韓民国と共産・全体主義を選んだ北朝鮮の克明な差が如実に表れた」と指摘し、共産化された北朝鮮と対峙(たいじ)して自由民主主義国家として経済発展した矜持(きょうじ)を語った。
その上で日本を「普遍的価値を共有し共同の利益を追求するパートナー」とし、北朝鮮の核・ミサイルの脅威を遮断するため、米国を含めた日米韓3カ国で「偵察資産の協力とリアルタイムの情報共有」が実現されるべきだと主張した。
さらに最大の対北抑止要因は「日本が国連軍司令部に提供する7カ所の後方基地」と述べ、韓国の安全保障に日本が重要な役割を果たしていると明言した。
韓国国民には反日感情が残るが、それでも韓国は日本との間で軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を締結した。今回、日本の軍事的役割を韓国大統領が認めたことで、さらに軍事協力が拡大する可能性もある。
尹氏の発言は、北朝鮮の脅威に加え、ウクライナに侵攻し戦術核使用を示唆するロシアや覇権主義を続け台湾侵攻も辞さない中国など、韓国を取り巻く情勢が緊迫度を増していることも意識してのことだろう。
独裁政治で国内を締め付け、武力で周辺国に脅威を与えている朝中露に対抗する自由民主主義国として、韓国は日本との安保協力を惜しむべきではない。
ただ、日韓間には火種もある。東京電力福島第1原子力発電所の処理水を海に放出する計画を巡り、韓国側では最大野党の共に民主党や左派系市民団体が「汚染水を流す日本は悪い」と吹聴し、これを認める尹政権を批判している。歴史認識問題では来月1日の関東大震災100年を機に、韓国では「朝鮮人虐殺」に対する日本の国家責任を問う訴訟を準備中だ。
残念ながら韓国では「反日」を国内利用する政治家や自分たちの活動の拠(よ)り所とする市民団体の影響力が衰えていない。尹氏は今回の演説でこうした勢力を「反国家勢力」と位置付け、警戒を呼び掛けた。
尹氏は、植民地支配下の苦痛を想起させる過去回帰的な内容を差し控え、日韓両国は「安保と経済」で「未来志向的に協力」すべきと訴えた。「反日」を利用する勢力の主張に巻き込まれないよう注意を促したものだが、どれだけ国民が共感したか気になるところだ。
日米韓首脳会談を定例化
日米韓3カ国は18日にワシントン郊外で首脳会談を行い、3カ国首脳会談の定例化などで合意する見通しだ。安保を軸に3カ国が集まる光景が当たり前になりつつあるのは心強い。