自民党は、防衛費増額に必要な財源確保に向け、政府が保有するNTT株の売却を議論するプロジェクトチーム(PT)を立ち上げ、月内に初会合を開く方針を固めた。ただ党や政府内では、経済安全保障の観点から株売却への懸念が根強い。慎重な検討が求められよう。
税負担を軽減する狙い
NTT株の売却は、増税以外の防衛財源確保策を検討する自民党の特命委員会(委員長・萩生田光一政調会長)が提起。6月にまとめた提言で「完全民営化の選択肢も含め、経済安全保障にも配慮しつつ、速やかに検討すべきだ」と明記した。
政府の株保有割合は3月末時点で34・25%で、時価は4・7兆円相当。一度に売却すれば株価が暴落する恐れがあるので、20年かけて売れば年2400億円程度の売却益となる。防衛費増額に伴い、2027年度以降は毎年度約4兆円の財源が必要で、政府はこのうち1兆円強を法人、所得、たばこ3税の増税で確保する方針だ。NTT株の売却には、これらの税負担を減らす狙いがある。
しかし、それでも約8000億円は増税で賄うことになる。しかも株の売却益は恒久財源ではなく、20年で全て売ってしまった後は税負担が増えることになる。増税ありきではなく、1兆円強は国債発行で確保するよう求めたい。
NTT法は、政府に株の「3分の1以上の保有」を義務付けており、大量に売却するには法改正が必要となる。政府は株保有で、NTTの経営上の重要事項に対する拒否権を確保してきた。こうした現状に対し、党内からは「10年前に経営の自由度を高めていれば(米グーグル、アップルなど)『GAFA』(と呼ばれる巨大IT企業)の仲間入りができていたかもしれない」との声も上がっている。
だが、経済安保の観点から懸念の声も出ている。高市早苗経済安保担当相は「懸念国に(株を)全部買い上げられてしまうような観点を踏まえた議論を期待する」と語った。PTのトップに就く自民党の甘利明前幹事長は、外国人投資家の出資を制限する外為法で対応できるとの認識だが、性急に結論を出すことがあってはなるまい。
NTT法は、電気通信技術の普及のために研究成果の公開も定めている。このような規定も経済安保上、問題があると言わざるを得ない。
中でも、光技術を活用して電力効率を従来の100倍にするNTTの次世代通信基盤「IOWN(アイオン)」を公開することは、他国への技術流出につながり、軍事面で応用される恐れもある。こうした面の法改正も検討する必要がある。
一方、NTT法にある全国一律の固定電話サービス提供については、加入者が減少して赤字となっているが、固定電話はスマートフォンより料金が安く、災害時の連絡手段になるなどのメリットもある。政府の株式保有によるNTTの公益性を、どのように考えるかが問われる。
防衛費抜きに議論を
いずれにせよ、NTT株の売却については防衛費の問題を抜きにして議論すべきだ。