エーザイと米製薬大手バイオジェンが共同開発したアルツハイマー型認知症治療薬「レカネマブ」が米食品医薬品局(FDA)から正式承認された。
日本では9月までに承認される見通しだ。介護負担の軽減につなげたい。
症状の進行遅らせる効用
レカネマブは早期のアルツハイマー病患者を対象にした新薬で、脳内に蓄積して病気の原因になるとみられるタンパク質「アミロイドβ(ベータ)」を取り除き、病状の進行を遅らせる効用があるとされる。臨床試験(治験)では薬を投与しない患者に比べ、症状の悪化を27%抑制する効果が確認された。
従来の治療薬は一時的な症状の改善効果はあっても、時間の経過とともに服用前と同様のスピードで認知機能が低下する経路をたどる。進行を遅らせる効用が認められた薬は初めてで、FDAが1月に迅速承認し、世界で初めて米国での使用が可能になった。
正式承認を受け、エーザイの内藤晴夫最高経営責任者(CEO)は「研究開始から約40年を経て、アルツハイマー病の根本病理に関わる治療薬を届けられる。万感胸に迫る思いだ」と述べた。患者や家族にとっても明るいニュースだと言えよう。
ただ、残された課題は多い。日本にはアルツハイマー病の患者が約500万人いるが、レカネマブの投与対象となるのは5万人程度とされる。また脳の撮影画像からアルツハイマー病の確定診断ができる施設は国内に約50施設しかなく、新薬の恩恵を広げるには早期発見のための施設拡充が欠かせない。認知症と診断されることに抵抗感を抱く人も多く、受診しやすい体制も整備する必要がある。
米国でレカネマブは「レケンビ」の名称で販売され、卸売価格は患者1人当たり年2万6500㌦(約380万円)に達する。普及が進むと、国の医療保険財政を圧迫する恐れもある。一方、投与される患者が限定されるため、医療介護費用を削減できるとの見方も出ている。日本では認知症に伴う社会的コストが2014年時点で年14・5兆円に上ったと試算されており、コストを減らせるか見極めが求められよう。このほか、脳の浮腫や出血などの副作用にも注意が必要だ。
国内の認知症患者は25年に約730万人に達すると言われており、症状が進んだ人のための治療薬も開発が急がれる。それとともに、患者が希望を持って生活できる社会づくりも大きな課題だ。
6月には、認知症の人を含む誰もが相互に支え合う「共生社会」の実現を掲げる認知症基本法が成立した。基本理念に盛り込まれた正しい理解の普及、適切な保健医療・福祉サービスの提供、家族への支援などを推進し、患者や家族が安心して暮らせる社会を実現すべきだ。
政府は予防啓発に尽力を
高齢化が進む中、一人一人が認知症予防のための生活習慣を身に付けることも欠かせない。野菜や魚、豆類、海藻類などを多く摂取することや、ウオーキングなどの運動に予防効果がある。政府も予防策の啓発に力を入れる必要がある。