
ロシアのウクライナ侵略に危機感を抱いて北大西洋条約機構(NATO)への加盟を表明したスウェーデンに対して、トルコが加盟承認手続きを進めることに同意し、スウェーデンの加盟が確実になった。
速やかに手続きを進め、ロシアの領土拡張の野望を食い止めるべきだ。
露の核部隊が戦闘態勢に
北欧の中立国がNATO加盟を表明したことは、NATO東方拡大をウクライナへの軍事侵攻の理由の一つにしていたロシアにとって、かえってNATOを拡大する戦略的失敗をもたらした。核恫喝(どうかつ)が裏目に出た典型と言えよう。
ロシアと長い国境を接するフィンランドは4月に31番目の加盟国になった。しかし、スウェーデンに対してトルコは、自国からの独立を主張するクルド人組織「クルド労働者党」(PKK)を取り締まる「テロ対策」を要求。トルコの少数民族であるクルド人の人権に配慮するスウェーデン側と対立し、加盟承認に難色を示していた。
だが、それ以上にロシアのウクライナに対する蛮行の長期化は、看過できるものではなく、国際社会、特に欧米諸国を結束させたことは明らかだ。
昨年2月に「特別軍事作戦」と称してウクライナに軍事侵攻を開始したロシアのプーチン政権は、首都キーウを攻略できず、欧米はじめ国際社会はかつてない強力な対露制裁を科し、武器供与を含むウクライナ支援で一致した対応を取った。
短期間で軍事作戦を終結させるもくろみが外れたプーチン大統領は激怒し、同年2月末にショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長に核戦力を特別態勢に移すよう命じ、ロシアの核部隊が戦闘態勢に入った。核戦争を恐れさせることで、ロシアはNATOはじめ国際社会を牽制(けんせい)し、欧米諸国に「援軍」を求めるウクライナ側の期待をも打ち消した。
このことは、北欧のフィンランドやスウェーデンなどNATOに属さない中立国に衝撃を与えたことは間違いない。核の傘の下にない国は、強力な核戦力を保有するロシアのような国に侵略されれば助けもなく餌食になりかねないという恐怖心だ。このような露骨な力による現状変更を成功させてはならないという強い抵抗感も働いていると言えよう。
フィンランドとスウェーデンは昨年5月の段階で、NATO加盟申請を表明したが、準戦時にあるNATOは、異例の早さで北欧の国を仲間に迎え入れた。ロシアのような核保有国を相手に、米英仏の核保有国との同盟関係による拡大抑止は重要性を高めている。
拡大抑止機能する体制を
ウクライナを巡るNATO首脳会議にはわが国から岸田文雄首相も出席し、結束を図った。ロシアは極東にも面し、わが国の北方領土をいまだに不法占拠しており、旧ソ連時代から大きな軍事的脅威となっている。
さらに、核兵器を増強する中国、核兵器開発を進める北朝鮮など核の脅威に囲まれている。日米同盟およびNATO諸国などとの関係強化により、拡大抑止がしっかりと機能する体制を構築すべきだ。