「女性」として生活する身体男性の経済産業省職員が、職場の女性トイレの使用を制限されたのは違法として国に処遇改善などを求めた訴訟で、最高裁は制限を不当とする判断を示した。
個別のケース巡る判断
今回のケースで注目すべきは、原告が性同一性障害の診断を受けていたという点だ。体の性と自認する性が違う、いわゆる「トランスジェンダー」全てに対するトイレ制限についての判断ではない。そこを誤解してはならない。しかも、職員は既に一部の女性トイレを使用しており、これまでトラブルが起きていない実情も考慮した判断だ。
政府は今後、身体男性の女性トイレ使用における事業者の混乱を避けるとともに、女性の安全・安心を確保するため、その容認条件を明確にするための指針を作るべきだ。併せて、医師による性同一性障害の診断を厳格化する必要もある。
戸籍上の性別変更は2004年の性同一性障害特例法の施行で、性別適合手術を受けるなどの条件を満たせば可能となっている。男性から女性に性別変更した人の女性トイレ使用は問題にならない。しかし原告の50代職員は健康上の理由から手術は受けておらず、ホルモン治療を続けながら戸籍上、男性のまま「女性」として勤務。周囲の職員にもその事実を説明していた。
たとえ性同一性障害と診断された人でも、身体男性の女性トイレの使用については、抵抗感を持つ女性は少なくない。それを認める場合は、周囲の理解も考慮して判断されるべきだ。
この訴訟で東京地裁は19年12月、「制限は自認する性に即した生活を送る利益を制約し違法」と認定した。しかし、東京高裁は21年5月、使用が制限された女性トイレは一部のフロアにとどまり、職員の労働環境が特段変化した事実は認められないと指摘。「処遇は不合理と言えず、制限の撤廃を相当とする事情の変化が生じているとは認められない」として、一審判決を変更し、制限撤廃を求めた職員の請求を棄却した。
トランスジェンダーの職場での処遇を巡り、最高裁が判断を示すのは今回が初めてで、性的少数者のトイレ利用にどこまで配慮すべきか、その指針になると注目を集めていた。しかし、トランスジェンダーの概念は広く、性同一性障害とそうでない人を混同してはいけない。問題は性別変更していない性同一性障害の人である。ましてや最高裁がトイレ使用において「性の多様性」を認めたわけでもないことを指摘しておきたい。
6月施行の理解増進法でも、トランスジェンダーの女性専用スペース利用における女性の安全・安心の確保という課題が浮上している。公衆浴場における男女の取り扱いについて厚生労働省は、トランスジェンダーが女性専用スペースの利用を求めても、施設側があくまで身体的特徴で判断し、利用を断ることを認める通知を出している。
身体的特徴で区別を
トイレ使用でも、男女を心の性でなく身体的特徴で区別することは、一般的には法の下の平等を定めた憲法14条に照らして合理性があり差別に当たらないことを、政府は明確化すべきだ。