Homeオピニオン社説【社説】中国反スパイ法 独裁強化へ恣意的運用極まる

【社説】中国反スパイ法 独裁強化へ恣意的運用極まる

中国でスパイ行為の摘発を強化する改正反スパイ法が施行された。改正法は適用範囲を拡大し、摘発機関の権限を強めたが、摘発対象となる行為が曖昧であり、当局の恣意(しい)的な運用に警戒を要する。

解釈次第で行為認定

改正法はスパイ行為として、従来の「国家機密の提供」のほか「国家安全や利益に関わる文書、データ、資料、物品」の窃取や買収を新たに対象とした。「国家安全や利益」に関する具体的な説明はなく、「その他のスパイ活動」という曖昧な項目も、引き続き明記されている。中国に住む外国人のどのような活動も、当局の解釈次第で「スパイ行為」と認定される恐れが強まったと言える。

当局はスパイの疑いのある個人への手荷物検査のほか、調査段階で関連施設の封鎖が可能となる。物流や通信事業者は調査への協力が求められ、市民向けの通報窓口も設けられた。外国人の人権を脅かしかねず、在留邦人の間で不安が広がるのは当然だ。恣意的に運用されるとすれば断じて容認できない。

2014年の反スパイ法制定以降、日本人の拘束が相次いでおり、これまでに少なくとも17人が確認されている。最近では今年3月に北京でアステラス製薬の日本人男性社員が拘束された。こうした動きが強まることに警戒する必要がある。

気になるのは、なぜ中国がこの時期に反スパイ法を改正したのかだ。日本では現在、国立研究開発法人「産業技術総合研究所」の研究情報を、所属研究員で中国籍の男が中国企業に漏洩(ろうえい)したとして逮捕された事件を受け、スパイ防止法制定を求める声が高まっている。

スパイ防止法を巡っては、1985年に法案が国会に提出されたものの、メディアの取材活動が制約され「言論・表現の自由を侵害する」と主張する左翼勢力の猛反対で廃案となった。今後制定が検討されるようになれば、中国は情報窃取を続けるため、日本の反対勢力と結託して徹底的に妨害するだろう。中国での反スパイ法の恣意的運用が、日本国民にマイナスイメージを与えることも考えられる。

しかし、日本のスパイ防止法は中国の反スパイ法とは全く違う。スパイ防止法は国家と国民を守るためのものだが、反スパイ法は中国共産党の利益のために制定されたと言っていい。改正の背景には、共産党一党独裁体制に反する考え方や価値観が外国から流入することに、習近平国家主席が非常に神経質になっていることがある。

また議会も政府も司法も共産党の指揮下にある中国と違い、日本では三権分立が確立しているため、法を恣意的に運用することはあり得ない。「法の支配」の価値観は、民主主義国家には欠かせないものだ。

日本は防止法制定を急げ

日本でスパイ防止法が制定されれば、仮に中国で日本人がスパイの疑いで拘束された場合、日本で逮捕した中国人スパイと交換することもできる。日本は“スパイ天国”と言われて久しい。国民の安全や国家の宝とも言える先端技術を守るため、スパイ防止法の制定と本格的な防諜(ぼうちょう)機関の創設を急ぐべきだ。

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