米国では近年、過激なLGBT(性的少数者)イデオロギーの浸透により、伝統的価値観を重んじるキリスト教徒が同性婚などへの反対を理由に差別主義者と断罪され、訴えられるなどの社会的制裁を受ける事例が相次いでいる。「宗教迫害」とも呼べる風潮が強まる中、連邦最高裁が信教や言論の自由を擁護する画期的な判決を下した。
同性婚のサイト制作拒否
最高裁が審理したのは、西部コロラド州のウェブデザイナー、ローリー・スミスさんが起こした裁判。福音派キリスト教徒であるスミスさんは、結婚は男女間のものという宗教的信念により、同性カップル向けの結婚式のウェブサイト制作を拒否する意向だったが、同州の差別禁止法は性的指向などに基づいて顧客へのサービス提供を拒否することを禁じている。
スミスさんは信仰上の理由で同法の適用除外を求めて訴訟を起こしたが、連邦地裁、高裁で敗訴。これに対し、最高裁は「(州は)政治的、宗教的に重要な問題について、(スミスさんの)心の中にないことを口にすることを強要しようとしている。これは(言論の自由を保障した)憲法修正第1条が容認しないものだ」と断定し、スミスさんが逆転勝訴した。
この判決が画期的なのは、個人事業者が信仰に基づいて同性婚に賛同するサービスの提供を拒むことは、決してLGBT差別には当たらないとの判断をはっきり示したことだ。
最高裁は2018年にも、同州のケーキ職人が信仰上の理由から同性カップルへのウエディングケーキ作りを拒否したことを巡る裁判で、ケーキ職人側の主張を支持する判決を下した。だが、この時は、州公民権委員会が職人の信教の自由を尊重しなかったことを問題視し、事業者が信仰を理由に依頼を断ることができるかどうかの判断は示さなかった。
政府が国民に宗教的信念に反する表現活動を強要することがあってはならないのは当然のことだ。これが許されるならば「イスラム教徒の芸術家はムハンマドの像を描くことを政府に強制されるべきなのか。ユダヤ人の芸術家は反ユダヤ的な芸術を強制されるべきなのか」(共和党のテッド・クルーズ上院議員)という問題まで出てくる。
最高裁で信教・言論の自由を明確に擁護する判決が下されたのは、トランプ前政権の功績と言っていい。9人で構成される最高裁にトランプ前大統領が保守派判事を3人送り込んだことで保守派の優位が強化されたためだ。今回の判決でも保守派の6人全員が判決を支持した。
日本でも明確に守れ
日本で成立したLGBT理解増進法では「性的指向およびジェンダーアイデンティティを理由とする不当な差別はあってはならない」と明記された。日本でも今後、LGBTへの対応で個人や団体、事業者などが差別したと訴えられ、信教・言論の自由が脅かされるケースが出てくることが予想される。
それだけに米国の判決は日本にとっても示唆に富む内容だ。政府が策定するLGBT法の基本計画では、信教・言論の自由を明確に守る必要がある。