政府は東京電力管内の家庭や企業を対象とする夏の節電要請を始めた。期間は8月末まで。電力の供給余力を示す予備率が、安定供給に最低限必要な3%に近い水準まで低下する恐れがあるためだ。東電管内はもちろん、それ以外の地域でも節電を心掛けたい。
猛暑で停電のリスクも
東電管内の今夏の予備率は、「10年に1度の暑さ」を想定した場合、7月に全国で最も低い3・1%に下がると予想されている。発電所のトラブルなどが生じれば停電のリスクもある。東電管内の節電要請は2022年度の夏と冬に続く措置。政府は他の地域での要請は見送ったが、全国的に省エネルギーへの協力を求めている。
夏場は特に夕方以降、需給が逼迫(ひっぱく)する。家庭では、エアコンの冷房設定温度の引き上げやフィルターの清掃、照明の小まめな消灯などの節電に努めたい。西村康稔経済産業相は「小さな取り組みでも積み重ねれば大きな効果になる。できる限り節電をお願いしたい」と述べた。
もちろん夏の猛暑の中、行き過ぎた節電は禁物である。エアコンの使用を控えて熱中症になるようなことがあってはならない。無理のない範囲で行う必要がある。
電力需給が逼迫するのは、再生可能エネルギーの導入拡大などで採算の悪化した古い火力発電所の休廃止が相次いでいるためだ。政府は22年7月、全国規模での節電を7年ぶりに呼び掛けた。
ただ22年は6月末の時点で猛暑に見舞われ、東電管内では予備率が5%を下回るとして電力需給逼迫注意報が出された。冬も慢性的に電力が不足しており、22年3月には火力発電所の停止や気温低下などによって、東電、東北電力管内で予備率3%未満の際に出される電力需給逼迫警報が発令された。
東電管内では、11年3月の福島第1原発事故以降、原発を全く再稼働できていないことが電力不足につながっている。太陽光発電は夕方に出力が低下するなど、再生エネルギーで対処するには限界がある。こうした状況を改善するには、原発の再稼働を加速することが不可欠だ。
政府は23年2月、原子力を脱炭素効果の高い電源として「最大限活用」する方針を明記し、原発の建て替えや運転期間延長を盛り込んだ「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」を閣議決定。5月には、既存原発の「60年超」運転を事実上可能にする法律が成立した。原発活用の機運は高まっている。原子力規制委員会は円滑な安全審査に努めてほしい。
一方、東電柏崎刈羽原発(新潟県)のテロ対策に不備が相次いだ問題で、規制委は5月、事実上の運転禁止命令を維持する決定を下した。東電は管内の電力不足解消に向け、原発への信頼回復を急がなければならない。
火力発電も活用せよ
エネルギー資源の乏しい日本では、原発と共に火力発電の活用も求められる。
発電時に排出される二酸化炭素(CO2)を回収して地中深くに貯留する技術開発など、地球温暖化対策も進めるべきだ。