
ウクライナ侵略中のロシアを揺るがせた民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏による反乱劇は、プーチン大統領に大きな政治的ダメージを与えた。
ウクライナ軍との戦いでは、ロシア軍にも大きな損害が出ている。それでも侵略を続けるプーチン体制の脆(もろ)さが示されたと言えよう。
正当化の根拠を否定
プリゴジン氏は「ロシア軍がワグネルの兵舎を砲撃してきた」として、モスクワへの「行軍」開始を宣言。ワグネルは南部の軍事施設を掌握し、モスクワまで約200㌔に迫った。プーチン氏は「裏切り」に当たるとして処罰を警告。南部ボロネジ州ではワグネルとロシア軍ヘリコプターとの交戦に発展し、反乱でロシア軍の20人前後が死亡したとの情報もある。
ロシアがプリゴジン氏のベラルーシへの出国を認め、ワグネルが撤退したため、さらなる流血の事態は避けられたものの、プーチン氏とロシア軍の威信が深く傷ついたことは確かだ。
プリゴジン氏が反乱を企てたのは、ワグネルを手放すことを避けるためだったとされる。ロシアのショイグ国防相はワグネルに、7月1日までに国防省傘下に入るよう求めていた。プリゴジン氏はショイグ氏を嫌っていたという。
「プーチン氏のシェフ」の異名を取ったプリゴジン氏は、ワグネルを創設して2015年のシリア軍事介入で暗躍した。ウクライナ侵略では、東部ドネツク州の激戦地バフムト攻略で元受刑者らの突撃部隊を編成。23年5月に完全制圧を宣言し、ロシア軍に引き継いでワグネルは撤退した。決死の作戦で「2万人」(プリゴジン氏)が戦死したとされる。
ロシアでは正規軍の兵員募集は反発を招くため、ワグネルのような軍事会社に依存しているのが現状だ。プーチン氏もワグネルをむげには扱えず、プリゴジン氏の言動がエスカレートする中でも、反乱を未然に防ぐ対策を十分に講じていなかった。今回も結果的にプリゴジン氏を処罰できず、プーチン氏の求心力低下は目に見えている。
注意を要するのは、プリゴジン氏が反乱を起こす前にSNSに投稿した動画で「ウクライナとNATO(北大西洋条約機構)はロシアを攻撃しようとしていなかった」などと述べ、プーチン氏の侵略正当化の根拠を真っ向から否定したことだ。前線で戦果を挙げたワグネルの創設者の発言は重く、プーチン氏が侵略を続けても孤立を深めるだけだろう。ウクライナのゼレンスキー大統領は、ツイッターに「悪の道を選んだ者は皆、自らを滅ぼす」と投稿した。
各国はウクライナ支えよ
ワグネルの横暴を許したことは、ウクライナの戦況にも影響しよう。ウクライナ側ではロシアの部隊が弱体化し、反転攻勢の追い風となることに期待が高まっている。
ウクライナのクレバ外相は「敵の背後で起きるいかなる混乱も、われわれにとっては利益になる」と強調。ツイッターでも、各国に対し改めて武器支援を求めた。国際社会は結束してウクライナを支え、ロシア軍を全面撤退に追い込むべきだ。