通常国会では、性犯罪の規定を見直す改正刑法が成立した。強制性交等罪と準強制性交等罪を統合して「不同意性交等罪」に改称。強制わいせつ罪と準強制わいせつ罪も統合し、罪名を「不同意わいせつ罪」に変える。
現行法は文言が抽象的で解釈に幅があり、適用にばらつきが生じているとの批判があった。法改正を性犯罪への厳正な対処につなげなければならない。
要件として8項目列挙
強制性交等罪が成立するには「被害者の抵抗を著しく困難にする程度の暴行や脅迫を用いること」が必要だった。しかし暴行や脅迫がなくても、恐怖などで体が動かなくなって被害を受けるケースもある。こうしたケースの場合、裁判では無罪となることもあり、現行法は性犯罪と認められるハードルが高過ぎるとの批判も出ていた。
このため、不同意性交等罪は要件として「暴行・脅迫」のほか「アルコール・薬物の摂取」「恐怖・驚がく」「地位利用」など8項目を列挙。これらにより「同意しない意思を形成し、表明し、もしくは全うすること」を困難にさせたり、そうした状態に乗じたりして性交などをした場合に成立するとした。
性暴力は「魂の殺人」とも言われ、被害者が心的外傷後ストレス障害(PTSD)などを発症するケースもある。「同意のない性行為」には厳しく対応すべきだ。罰則の不備を解消して被害根絶に努めることは、政府の重要な役割である。
改正法では、子供の性被害を防ぐため、わいせつ目的を隠してSNSなどで16歳未満を懐柔する「面会要求罪」も創設された。威迫・誘惑や金銭供与などで面会を要求すれば1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金、実際に面会した場合は2年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金を科す。
性的行為について自ら判断できる「性交同意年齢」は、現在の13歳から16歳に引き上げる。13歳未満との性行為は同意があっても処罰対象だったが、中学生に相当する13歳から15歳も保護対象とした。性被害を受けた子供の心が深く傷付き、その後の人生に大きく影響することは決して看過できない。子供の健全育成のため、厳罰化は当然の措置だ。
公訴時効は性犯罪全般で5年延長された。これはショックを受けて被害を申告しづらい実態を踏まえたものだ。被害者が未成年の場合は、18歳になるまでの期間を加算する。幼少期に性暴力を受けた場合、被害を認識するまで時間がかかるケースもあることを考慮した。
性犯罪の被害者団体などからは、法改正を評価する一方、公訴時効の撤廃を求める声も上がっている。今後も実態に即した見直しが欠かせない。
被害根絶へ性秩序重視を
警察庁によると、2022年の強制性交等罪は前年比で20%近く増え、罰則を強化するなどした17年の刑法改正以降で最多となった。
性犯罪を助長しているのは、社会に蔓延(まんえん)する性の乱れだと言っていい。性被害を根絶するには、一夫一婦制の性秩序を重視する価値観が何よりも求められよう。