
バイデン米大統領は国賓として招待したインドのモディ首相と会談し、軍事・技術協力や先端技術などのサプライチェーン(供給網)強化で一致した。また、インドの戦闘機エンジンの共同生産や米国からの無人機調達、インドの造船所で米海軍艦艇の修理を可能にすることなどで合意した。
中露念頭にモディ氏厚遇
会談後の共同記者会見でバイデン氏は、米印関係を「世界で最も重要であり、かつてないほど強力かつ緊密で活力に満ちている」と高く評価。モディ氏も「未来に向けた強力な協力関係を築いている」と応じた。
バイデン氏が同盟国以外の首脳を国賓として招待したのは初めて。歓迎式典ではハリス副大統領はじめ約7000人のインド系市民がホワイトハウスに招かれたほか、モディ氏が上下両院合同会議で演説するなど米国の厚遇ぶりが目立った。
背景には、インドのロシア傾斜に自制を促すとともに、緊密な関係を築いて日米豪印4カ国の枠組み「クアッド」を強化し、海洋進出を進める中国を牽制したいという米国の強い思いがある。今年20カ国・地域首脳会議(G20サミット)の議長国であるインドは、「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国を主導し、存在感を高めている。モディ氏を厚遇することで、グローバルサウス重視の米国の姿勢を示す狙いも込められていた。
一方モディ氏には、対米接近を誇示し国境紛争を抱える中国を牽制(けんせい)するとともに、ロシアに偏っている武器の調達先を多様化させ、国産化と技術力向上を図る狙いがある。双方の思惑が合致しての会談となり、米印関係は大きく前進したと言える。
もっともインドは冷戦時代からロシア(旧ソ連)と友好関係を築き、今も兵器調達の約6割をロシアに依存。先進7カ国(G7)主導の対露制裁にも同調していない。またインドは、自国の利益を優先させ案件毎(ごと)に相手と連携する戦略的自律の外交を重視する。今回の会談で直ちにロシア離れが進むとは考え難い。
だが国力低下が顕著なロシアとの関係に固執するよりも、米国や西側との協力を強めることでインドが得られる経済・技術的利益は遙かに大きいものがある。中国への警戒心を高めるモディ政権は「アクト・イースト(東方重視)」を提唱し、東南アジアや太平洋地域への関与を強めている。今後インドの自由陣営への接近加速で、対中連携が深まることを期待したい。
そのためには日本の果たす役割も大きい。ユーラシア大陸の一角を占め、中国の膨張を食い止め得るとともに、インド洋のシーレーン(海上交通路)をも扼すインドは、わが国の安全保障にとって極めて重要な大国である。近年日印の安保協力は急速に進んでおり、中印国境を背後に控えるインド北東部の開発支援にも日本は注力している。
インド太平洋の安定図れ
岸田政権は、「自由で開かれたインド太平洋」を提唱し日印関係強化に尽力した安倍晋三元首相の遺志を継ぎ、米国と連携してインドとの戦略的関係をさらに強固なものとなし、インド太平洋地域の平和と安定実現に努めるべきである。