
米連邦準備制度理事会(FRB)が6月の連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げを見送った。
インフレ抑制に向けたこれまでの急激な金融引き締めや、米銀の相次ぐ経営破綻で広がった信用不安が景気に及ぼす影響を見極めるためだ。柔軟な政策運営が求められる。
年内にあと2回利上げか
政策金利は年5~5・25%を維持。ただFOMC参加者の政策金利見通し(中央値)は、2023年末が5・5~5・75%と、年内に通常の0・25%幅であと2回利上げするシナリオとなった。7月以降に利上げ再開の可能性がある。
FRBは約40年ぶりの高インフレを封じ込めるため、22年3月から計5%の大幅利上げを進めてきた。インフレの背景には、新型コロナウイルス危機からの景気回復による物価高騰に加え、ロシアのウクライナ侵略に伴うエネルギーや穀物の価格高騰がある。
しかし急速な利上げで、米国債などの価格が下がって巨額の含み損が発生し、経営環境が悪化したシリコンバレー銀行(SVB)など3行が相次いで破綻する事態が生じている。銀行の融資基準が厳しくなったことで景気にブレーキが掛かりかねない状況だ。
一方、23年5月の消費者物価指数(CPI)上昇率は前年同月比4・0%と11カ月連続で伸びが鈍化した。ただ労働市場は底堅く、人手不足による賃金上昇を背景にインフレ率は当面、目標の2%まで低下しないと予想されている。
FRBのパウエル議長は、今回の利上げ見送りで金融引き締めを転換するとの見方を否定している。ただ、インフレ抑制に向けた取り組みと共に景気への十分な目配りが欠かせない。経済の先行きは不透明で、FOMCは24年中に利下げに転じる想定も示しているが、情勢によっては23年中の利下げも考えるべきだろう。
米調査会社ギャラップが実施した世論調査の結果によると、パウエル氏に「大いに」あるいは「まずまずの」信頼を寄せているとの回答は36%だった。これは、グリーンスパン氏がFRB議長だった01年に調査を始めて以来、最も低い。信頼度の低下はインフレ率の急上昇と軌を一にしている。FRBは柔軟で機動的な政策運営に努めなければならない。
米国の経済動向は海外経済への影響も大きい。松野博一官房長官は、FRBが利上げを見送った一方、政策金利見通しを引き上げたことについて「日本や世界経済にどのような影響が生じるか、引き続き注視したい」と述べた。
「出口戦略」への備えも
日銀では23年4月、経済学者の植田和男氏が総裁に就任。6月の金融政策決定会合では、現在の大規模な金融緩和策の維持を決めた。
植田氏は長短金利操作の副作用について「(現時点では)やや落ち着いている」との認識を示し、今後も効果と副作用を比較して修正が必要か見極めていく考えを示した。大規模緩和からの「出口戦略」への備えも求められる。