与野党が今国会に提出したLGBT(性的少数者)理解増進法3案について、岸田文雄首相は今国会での成立に意欲を示している。しかし、いずれも危険性を内包する法案であり、廃案にすべきだ。
性的少数者に寛容な日本
与党案は、2年前にまとまった超党派案の「性自認」「差別は許されない」の文言を「性同一性」「不当な差別はあってはならない」と修正した。概念が曖昧で「女性」を自認する「トランス女性」(身体男性)の女性用のトイレ・銭湯使用などを禁止することができなくなり、社会混乱が広がる懸念があるからだ。
一方、与党案を「後退」と反発した立憲民主、共産、社民の野党3党は超党派案を提出。日本維新の会と国民民主党の法案は、与党案の「性同一性」を「ジェンダーアイデンティティ」に修正するなどした。さらに「全ての国民が安心して生活することができること」を「留意」として加え、懸念の声に配慮する形にした。
だが、3法案の考え方に大きな違いはなく、「性の多様性」に寛容な社会の実現を目指す。これは、男女の二つに分ける性別意識がLGBT当事者への差別につながっているとする活動家の主張に沿っている。性別に関係なく使える「ジェンダーレストイレ」が増える背景には、利用者の意識を変える狙いがある。法案成立はこの動きを後押しするだろう。
与党案の国会提出には、自民党保守派から強い反対の声が上がっていた。かつてキリスト教の影響で同性愛行為を刑法で禁じたことへの反発から、LGBT運動が生まれた欧米社会と違い、わが国はもともと性的少数者に寛容で「理解増進法は必要ない」との見方もある。欧米の“LGBT先進国”では現在、トイレなどの女性スペースだけでなく、女性競技へのトランス女性の出場でスポーツ分野にも混乱が生じている。法案論議で目を背けてはならない現実だ。
法案成立は、自治体や企業が主催する関連講習会を活発化させるから、当事者団体は企画への協力や講師の派遣などで活動資金を得ることになる。法案反対の当事者が少なくない中、推進派は日本の伝統文化を否定的に捉える排他的な左翼団体が多いことも忘れるべきでない。
「理解増進」の言葉は美しく聞こえる。しかし、そもそも「理解」とは内面の問題だ。それを法律で「増進」させることは、思想・信条への介入ともなりかねない。ジェンダーレストイレに反対するのは「理解していないからだ」というように。日本人の精神文化を守りながら、自らの性に困難を抱える人への支援の在り方を考えるべきだろう。
言論抑圧の実態知らせよ
法案に反対する女性団体や、学校での早期のLGBT教育に懸念を表明する保守派の間には、「差別主義者」のレッテルを貼られ、身の危険を感じるほどの攻撃に晒(さら)されている人が少なくない。排他的な左翼活動家が少数者の「人権」を掲げ、弱者の内面を抑圧しているのだ。法案成立は言論封殺をさらに激化させるだろう。言論の自由を抑圧する実態についても、メディアはもっと知らせるべきである。