フィリピン沿岸警備隊(PCG)がルソン島のバターン州沖で、海上保安庁と米沿岸警備隊との初の合同海洋演習を7日まで行っている。南シナ海における中国の動きを警戒する日本やオーストラリアなどは、米国の同盟国であるフィリピンとの関係強化を進めるべきだ。
台湾も念頭に関係強化
南シナ海では、2月にPCGの巡視船が中国海警局の艦船からレーザー照射を受け、乗組員が一時視力を失う被害を被っている。さらに5月末には、中国軍機が米軍機に急接近するなど、緊張が続いている。
中国は南シナ海で人工島埋め立てを強行し、軍事拠点化を進めている。しかしオランダ・ハーグの仲裁裁判所は2016年7月、中国が南シナ海をほぼ囲むように設定する独自の境界線「九段線」について、域内の資源に「歴史的権利を主張する法的根拠はない」との判断を下した。国際ルールに反する中国の行動は断じて容認できない。
22年6月に就任したフィリピンのマルコス大統領は、ドゥテルテ前大統領時代にぎくしゃくした対米関係を改善。米比両国は23年2月、「防衛協力強化協定(EDCA)」を改定し、米軍がフィリピン国内で使用できる基地を5カ所から9カ所に拡大することで合意した。
マルコス氏は5月、米ホワイトハウスでバイデン大統領と会談。バイデン氏は中国を念頭に、南シナ海でフィリピンの軍艦や公船などが武力攻撃を受けた場合、米国による防衛義務を履行すると強調した。
米比両国の急接近は、中国による台湾への武力侵攻に備える意味もある。フィリピンはバシー海峡を挟んで台湾に向き合う要衝であり、米国はフィリピンの基地利用拡大で中国への抑止力を高める必要がある。
一方、日本はこれまでもフィリピンの海洋警備能力向上のため、大型巡視船などを供与したほか、防空レーダーの輸出に合意。2月に来日したマルコス氏と岸田文雄首相との会談では、災害救助や人道支援で自衛隊を派遣する手続きの円滑化を確認するなど協力を強化している。
中国は東シナ海にある沖縄県・尖閣諸島の領有権を一方的に主張し、中国海警船が尖閣周辺で領海侵入を繰り返している。東・南シナ海で覇権主義的な動きを強める中国に対抗するため、日米比の関係を深めることが求められる。
シンガポールではアジア安全保障会議(シャングリラ会合)に合わせて初の日米豪比の4カ国防衛相会談が行われ、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた安全保障分野での連携強化を確認した。これに先立って開かれた日米豪の防衛相会談では、最新鋭のステルス戦闘機F35の共同訓練を初めて豪州内で実施することで合意するなど、3カ国の連携の重要性が改めて確認された。
重層的な防衛協力を
今回の日米比合同演習にも、豪州がオブザーバーとして参加している。
太平洋を取り囲む形の日米豪比による重層的な防衛協力で、中国の強引な海洋進出を牽制(けんせい)すべきだ。