米国務省は世界の「信教の自由」に関する年次報告書を発表し、中国がイスラム教徒であるウイグル族、チベット仏教徒、キリスト教徒、法輪功学習者への弾圧を続けていることを非難するとともに、日本では安倍晋三元首相暗殺後の世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に対する政府の質問権行使や国会の動きを注視した。
中国がイスラム教徒勾留
「信教の自由」が著しく侵害されるのは国家が宗教に介入する場合だ。世界各国の中でも一党独裁の共産主義国に顕著な傾向で、特に長らく世界一の人口を保ってきた多民族の中国では深刻な状況を生んでいる。
中国について報告書は、憲法上の建前と実際の宗教支配の仕組みに触れている。憲法では国民が「宗教の信仰の自由を有する」としながらも宗教的実践の保護は「通常の宗教活動」に限られるとし、「通常」の定義はなされていないと指摘した。
中国政府は仏教、道教、イスラム教、プロテスタント、カトリックの5宗教を公認し、「愛国宗教協会」に所属する宗教団体のみが政府に登録を許可される。聖職者は中国政府および中国共産党に従うことが求められており、「違法な宗教活動や宗教的過激思想への抵抗、宗教を利用した外国勢力の浸透への抵抗」をしなければならない。
これでは神仏や教祖を敬う信徒にとって「信教の自由」は当局の下に制限される。それ以上に深刻なのは、当局の意に沿わない宗教を信仰する人々を不当に拘束し、弾圧していることだ。
報告書は、中国当局が2017年以降、イスラム教の信仰を持つウイグル族、カザフ族の人々を100万人以上拘束し、広大な収容所に勾留していると指摘した。人権団体によっては拘束された人数は最大で350万人と推計している。
国連人権高等弁務官事務所も昨年、中国・新疆ウイグル自治区で「テロ対策などを名目に深刻な人権侵害が行われている」とする報告書を発表した。中国は収容所を閉鎖し、拘束されている人々を解放すべきだ。
また、「信教の自由」年次報告は、中国でキリスト教徒、イスラム教徒、チベット仏教徒、法輪功学習者は、就業、住居への入居、ビジネスなど社会的活動でも差別を受けたと報告。国家の統制が社会に深刻な影響を与えている。
一方、わが国では安倍元首相の暗殺犯が母親の旧統一教会への寄付を犯行の理由に挙げたことで「メディアの強い関心を集め」、岸田文雄首相が解散請求に向けた質問権行使を指示し、国会で「法人等による寄付の不当な勧誘の防止等に関する法律」が制定されたことや、教団が自由を侵害しているとの宗教2世の主張に触れた。
公平かつ慎重な対処を
同時に旧統一教会の信徒が嫌がらせや殺すとの脅迫を受けていると訴えたことや、国連自由権規約人権委員会にパリに拠点を置く人権団体から旧統一教会に対する「不寛容、差別、迫害のキャンペーン」について報告書が提出されたと指摘した。政権や国会の影響は大きいものがある。信仰を巡る人権問題には公平かつ慎重を期したい。