政府は、早稲田大や立命館大など国内の少なくとも13大学に、中国政府による中国語や自国文化の普及を目的とした教育機関「孔子学院」の設置が確認されているとの答弁書を閣議決定した。孔子学院は、中国共産党が影響力を拡大し宣伝工作を進めるための組織だと言われている。一党独裁体制を敷いて人権を弾圧する中国共産党への支持が、日本の学生や大学関係者の間で広がることが懸念される。
欧米で閉鎖の動き広がる
答弁書は、参政党の神谷宗幣参院議員の質問主意書に答えたもの。日本で設置が確認されたのは他に、愛知大、桜美林大、大阪産業大、岡山商科大、関西外国語大、札幌大、福山大、北陸大、武蔵野大、山梨学院大、立命館アジア太平洋大である。
中国は2004年、最初にソウルに孔子学院を設立して以来、19年末までに162の国と地域に550校を設置。孔子学院を受け入れる教育機関に対し、教員、教材、カリキュラムの無償提供や資金援助などを行ってきた。しかし欧米では、中国が孔子学院を情報収集やプロパガンダ(政治宣伝)の拠点にしているとの懸念が強く、閉鎖などの動きが広がっている。
孔子学院の教育内容は、中国共産党の監督機関から認可を得ている。このため天安門事件などは取り上げず、台湾やチベット、ウイグル問題については中国共産党の主張を正当化するものとなっていることも懸念材料だ。ポンペオ前米国務長官は「中国共産党の世界的な影響力・プロパガンダ機関の一部」と述べている。
最初に孔子学院を閉鎖したのは、カナダのマクマスター大学だ。中国で非合法化された気功集団「法輪功」を支持する女性教員が、孔子学院との雇用契約で法輪功の一員となることを禁じられ、カナダの人権裁判所に苦情を申し立てたことが発端となった。大学側は差別的な雇用がカナダの法律と相いれないと判断し、13年に提携を解消した。
米国ではスパイ活動に関わっているとして、連邦捜査局(FBI)の捜査対象となった。トランプ前政権時に118あった孔子学院は、22年6月時点で104カ所が閉鎖され、4カ所が閉鎖手続き中だ。スナク英首相は昨年10月の就任直後、英国内の30カ所の孔子学院を閉鎖すると表明。欧州でも同様の動きが進んでいる。
もっとも米国では、閉鎖した孔子学院が別の組織として活動を続けているという。諜報活動や影響工作への警戒が引き続き求められる。
政府は踏み込んだ対応を
台湾統一を目指す中国は、自らに有利な偽情報を流し世論を操作する「認知戦」に力を入れている。台湾に近い日本の孔子学院が、こうした情報戦の拠点とならないか憂慮される。
答弁書は「孔子学院を設置する学校法人から公開される情報などを踏まえ、法令違反が認められる場合には適切に対処したい」と指摘している。だが日本で孔子学院を拠点に中国の諜報活動が行われているとすれば、放置することはできない。政府は欧米の動きを踏まえ、大学に閉鎖を促すなどもっと踏み込んだ対応をすべきだ。