トップオピニオン社説【社説】G7と人工知能 民主主義守るルール作りを

【社説】G7と人工知能 民主主義守るルール作りを

UnsplashSanket Mishraが撮影した写真

先進7カ国(G7)が群馬県高崎市で開いたデジタル・技術相会合では、人工知能(AI)を適切な規制の下で活用して「信頼できるAI」を目指す共同声明が採択された。

革新的な技術のルール作りに関して、民主主義の理念に基づく「5原則」を表明したことは評価できる。

中露が恣意的に利用

世界では、対話型AI「チャットGPT」などの生成AIを活用する動きが大きく広がっている。会合では、急速に進化するAIの国際的な技術標準づくりなどを盛り込んだ行動計画も策定した。

生成AIは、プライバシーや著作権の侵害など問題点が指摘されている。声明はAI全般について「開発が急速で、社会に重大な影響を与える可能性がある」と強調した。

さらに強く懸念されるのは、覇権主義的な動きを強める中国やロシアなどによる恣意(しい)的な利用だ。台湾統一を目指す中国や、ウクライナ侵略を続けるロシアが、相手を混乱に陥れるために偽情報を拡散する際、生成AIを悪用する恐れがある。声明で「民主主義の価値を損なうようなAIの誤用・乱用に反対する」と表明したことは時宜を得ていると言えよう。

声明は、AIのほか、バイオ・量子テクノロジーなど新興技術の開発や利用に関するルール整備における①法の支配②適正な手続き③民主主義④人権尊重⑤イノベーションの機会の活用――の5原則の順守も掲げた。「信頼できるAI」の確立につなげる必要がある。

ただ、規制の在り方など具体的な議論ができなかったことは残念だ。背景には、生成AIの利用推進に軸足を置く日米と、法律による厳格な規制を重視する欧州との温度差がある。

G7メンバーのイタリアは、個人情報保護への懸念からチャットGPTの一時禁止に踏み切った。一方、AI開発の出遅れを挽回したい日本は米国と共に利用を進める方向だ。

生成AIを安心して利用できるよう、G7にはルール作りを主導する責務がある。G7の議論が進まないようでは、中国やロシアに付け入る隙を与えかねない。今年後半にも改めて閣僚級会合を開くというが、規制と利活用を両立させていく必要がある。

生成AIの活用については、インターネット上の膨大な情報を基に文章や画像などが作成できるため、企業では業務の大幅な効率化につながるとの期待も大きい。だが安全保障にも関わる多くの課題が指摘されている以上、特に政府機関などでは十分な注意を要する。

日本は大きく貢献を

AIに関する政策を利活用と規制の両面で議論する政府の「AI戦略会議」の初会合で、岸田文雄首相は「AIはグローバルな課題で、G7議長国としてリーダーシップを発揮することが求められる」と述べ、国際的なルール形成を主導することに意欲を示した。首相はG7広島サミットで、AIを主要議題の一つに据える考えだ。日本は民主主義や法の支配といった普遍的価値に基づくルール作りに大きく貢献すべきだ。

spot_img

人気記事

新着記事

TOP記事(全期間)

Google Translate »