
ウクライナを侵略しているロシアが、旧ソ連による対ドイツ戦勝記念日の式典を行い、「本物の戦争を仕掛けられている」とプーチン大統領は演説した。奪われた領土を取り返そうと必死に抗戦するウクライナ軍と同国を支援する国際社会に対し、自ら始めた侵略戦争を正当化しても信じる者はいない。ロシア国民を戦場に送ることなく一日も早く軍を撤収すべきだ。
「祖国防衛」を訴える
第2次世界大戦でナチス・ドイツに勝利したことを祝う戦勝記念日は、旧ソ連時代からロシアで最も盛大な祝日であり、国中の街々で祭りとなり、老若男女が歓声を上げて「不滅の行進」に繰り出す一大イベントだった。冷戦終結後のロシアでは、式典に欧米の戦勝国および敗戦した日本からも来賓が招待された時期もあり、民主主義への道を歩み始めたロシアに対する期待があった。
ところがプーチン政権はウクライナのクリミア半島を併合し、昨年には本格的な軍事侵攻に踏み切って同国東部から南部のドネツク、ルガンスク、ザポリージャ、ヘルソン4州の併合を一方的に宣言した。
独立国に対する否定し難い主権侵害であり、国際法違反であり、ロシアはあからさまな侵略者である。国際非難はもとよりロシア国内でさえウクライナと戦うことに納得できず、徴兵を忌諱(きき)する国外脱出者が相次いでいる。ロシア人が南米、東南アジアなど世界各地に難を逃れようと流出しており、不毛な戦いであることは明白だ。
プーチン氏が演説で、昨年のウクライナ侵略について国内で禁句とした「戦争」の語を用いたのは、現実を直視したとも言えよう。だが、一方的に併合宣言したドネツク、ルガンスク両州などドンバス地域に対するウクライナ軍の反転攻勢には「戦争」と表現し、自ら露軍の野蛮な侵略を「特別軍事作戦」と呼んだのは詭弁(きべん)だ。
また、ウクライナのゼレンスキー政権を「ネオナチ」呼ばわりすることで、対ドイツ戦勝記念日に「祖国防衛」を訴えて愛国心を鼓舞しようとしたと見えるが、小手先の理屈にすぎず通用しない。
帝政ロシア時代に侵略を受けたナポレオン戦争を「祖国戦争」と呼んだことにちなみ、第2次大戦のドイツとの戦いを「大祖国戦争」と呼称して愛国心に訴えることができたのは、実際に自国の領地にドイツ軍が侵入してきたからだ。かつて侵略を退けた戦勝国が今や侵略国となり、国連安全保障理事会常任理事国でありながらウクライナの事態に拒否権を発動して国連の機能を麻痺(まひ)させているのは大きな矛盾だ。
日本は国際的結束図れ
演説では中国の対日抗戦にも言及した。プーチン政権は日本を非友好国指定しており、極東でも緊張は増している。わが国はロシアの国際法違反を非難しており、岸田文雄首相はウクライナを電撃訪問して支援を確約した。日本が国際的連帯の弱い輪となることなく、広島での先進7カ国首脳会議(G7サミット)に向けてロシアの暴走を食い止める結束を図らなければならない。