日韓がようやく長いトンネルを抜け出しつつある。岸田文雄首相が韓国を訪問し、尹錫悦大統領と首脳会談を行った。
2国間会談のための首相訪韓は実に12年ぶりで、3月に来日した尹氏への答礼でもあり、「シャトル外交」(首脳同士の相手国訪問)が再開したことになる。戦後最悪とまで言われた両国関係が改善の流れに乗った。歓迎したい。
元徴用工で「助け舟」
関係改善に先に動いたのは尹氏だった。就任後、文在寅前政権が最大の懸案にしてしまった元徴用工訴訟を巡る問題に取り組み、韓国財団が賠償金支払いを肩代わりする解決案を発表したことが大きい。その直後、首相と尹氏の初会談が実現した。
その場で首相は、関係改善に向けた尹氏の本気度と誠意を感じ取ったのではないだろうか。
もともと今回の首相訪韓は夏頃との見方があったが、前倒しされたのは関係改善の流れを確かなものにしたい思惑が首相にあったためとみられる。
韓国国内では初会談で尹氏が日本に譲歩し過ぎたという批判が上がり、支持率が低下するなど窮地に追い込まれていた。そのため韓国では、尹氏が日韓改善にさらに踏み出せるよう、日本側がスピーディーに「助け舟」を出してくれるよう求める声も上がっていた。
今回の会談で首相は、元徴用工問題について「多数の方々が大変苦しい、悲しい思いをしたことに心が痛む」と述べた。歴史認識では歴代内閣の立場を引き継ぐ点で「今後も揺るがない」と強調した。こうした発言には尹氏を側面支援する狙いがあったようだ。
また19日から広島で開催される先進7カ国首脳会議(G7サミット)に合わせた日米韓首脳会談を前に、認識の共有を図る必要性もあっただろう。
両首脳が関係改善を重視する背景には、北東アジアで緊迫度を増す安全保障問題がある。北朝鮮による核・ミサイルの脅威を抑え込むには、もはや米国を中心にした日米韓3カ国の軍事的連携なしには困難だ。
さらに覇権主義を強め、台湾侵攻までほのめかす中国を念頭にした「自由で開かれたインド太平洋」の実現でも、日韓は足並みを揃(そろ)える必要があった。
会談では半導体のサプライチェーン構築での連携を確認するなど、今後は経済安保でも協力の流れが加速しそうだ。
新型コロナウイルス禍で制約の多かった日韓間の往来も、水際対策の大半が解除され、多くの観光客が行き来し始めている。国民同士の相互訪問拡大は関係改善を後押しするはずだ。
だが、火種は残っている。慰安婦問題や佐渡金山の世界遺産登録など歴史認識を巡る懸案、竹島(島根県)の領有権問題に加え、今回の会談でも議題になった福島原発処理水の海洋放出に対する韓国側の反発がある。
「反日」扇動で妨害も
韓国では革新系野党や市民団体、一部メディアが偏った歴史観に基づいて「反日」世論を扇動し、日韓関係改善を妨げている。これに刺激され、再び日本で「嫌韓」ムードが広がる恐れもある。日韓改善を後戻りさせない知恵が求められよう。