
新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが、きょうから季節性インフルエンザと同じ「5類」に移行する。3年以上に及んだ新型コロナ対策は大きな区切りを迎え、感染対策は個人の判断に委ねられるが、今後も新型コロナの特性に留意し、注意を怠らないようにしたい。
行動制限の根拠なくなる
5類移行で緊急事態宣言など行動制限の法的根拠はなくなり、入院勧告や就業制限はできなくなる。無料だったウイルス検査や外来診療は自己負担となる。感染者数の集計方法も全ての患者情報を集める「全数把握」から「定点把握」に移行。毎日の新規感染者数の発表はなくなり、医療機関1カ所当たりの平均患者数などを毎週金曜日に都道府県別で公表する。死亡者数の集計・公表も原則終了する。
とはいえ、感染が完全に収束したわけではない。政府分科会の尾身茂会長は、高齢者らの重症化リスクが高く、流行・変異の進み方も予測困難であることから「完全にガードを下げるのは早い」としている。ワクチン接種について岸田文雄首相は、今後も無料で行うと表明した。
世界保健機関(WHO)も、新型コロナ感染拡大を受けて出していた「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」の宣言終了を発表。一方、テドロス事務局長は「ウイルスは命を奪い続け、変異も続けている。これで新型コロナは心配ないというメッセージを国民に送ってはいけない」と述べ、今後も警戒を続けるよう各国に呼び掛けた。
2019年末に中国武漢で感染が報告されて以来、世界を混乱に陥れた新型コロナの起源については、いまだに明らかでない。米疾病対策センター(CDC)のロバート・レッドフィールド前所長は、下院の特別小委員会で、新型コロナは中国の武漢ウイルス研究所から流出した可能性が高いと証言している。
その理由として、人から人への感染力が非常に強く、変異が速いというこれまでのウイルスにない「生物学的特徴」を挙げている。発生源の解明は、中国側の非協力で進んでいないが、今後の世界的な感染対策、さらに安全保障、そして人道上の重要問題である。WHOは起源解明への努力、中国への働き掛けを続けていくべきである。
新型コロナ蔓延(まんえん)では、政府の危機管理体制が問われた。その反省から、行動制限などを決める内閣官房の対策推進室と医療提供体制などを担当する厚生労働省の対策推進本部を一元化した内閣感染症危機管理統括庁の設置が決まった。
緊急事態法制定の検討を
司令塔機能の強化は評価できるが、個人の行動を法的に制限することを可能とする緊急事態法がないことが根本的な問題として残っている。たびたび発出された緊急事態宣言も、完全に行動を制限するものではなく、基本的に「要請」に留まる。欧州諸国で実施された都市封鎖(ロックダウン)はできない。
中国のような人権無視の「ゼロコロナ」政策は論外だが、新型コロナ以上の感染力やリスクを持つ感染症が蔓延した場合に対応できるのか。日本のコロナ対策を各国と比較検証する中で改めて検討すべき課題である。