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【社説】技能実習見直し 日本で安心して働ける制度を

外国人技能実習制度などの見直しを検討する政府の有識者会議は、制度の廃止と「人材確保」を目的とする新制度の創設を求める中間報告書を公表した。実習生の人権に十分に配慮し、日本で安心して働けるようにする必要がある。

賃金未払いや暴力も

現行制度は、途上国の国民に技能や知識を習得させる「国際貢献」を目的に掲げ、1993年に始まった。農漁業や建設業など87職種が対象で、最長で5年間、働きながら技能を学ぶことができる。実習生は昨年6月末時点で約33万人いる。

しかし実際は地方や中小企業の人材確保に利用されており、長時間労働や賃金未払い、上司や同僚による暴力などが問題となっている。実習生の5割以上が母国の斡旋業者に手数料などを払うため、借金を背負っていることも看過できない。劣悪な環境に耐え切れず、2021年には約7000人の実習生が失踪した。

実習生を使い捨ての労働力として扱うことは言語道断だ。人手不足で実習生を含む外国人が欠かせないというのであれば、それにふさわしい処遇をすべきである。制度見直しは遅きに失したと言えよう。

報告書が「人材確保」を強調したのは、目的と実態の乖離(かいり)を解消するためだ。新制度については、外国人の中長期的な就労を促すため、一定の専門性を要する在留資格「特定技能」と職種を一致させ、円滑に移行できるようにすることを主張した。政府は「特定技能2号」の対象を、現在の2分野から11分野に拡大する方針だ。

また、日本が受け入れる人材を「労働者」と位置付け、原則的に勤務先変更を認めない「転籍制限」を緩和する。実習生が転籍できないことが人権侵害につながったためだ。ただ、限られた期間内に技能を習得させる観点から一定の制限は維持するとした。

だが制限が緩和されれば、比較的賃金が高い都市部に人材が偏り、地方の人手不足が深刻化する恐れもある。実習生を重視して日本人と同じ水準の給料を支払い、日本語の学習費などを支援しているような企業では、日本人を雇用するより費用がかかることもある。実習生が転籍すれば大きな痛手となろう。地方や中小企業の事情も念頭に制度設計を行う必要がある。

新型コロナウイルス禍からの経済回復で、人手不足は世界中に広がっている。円安が進んだため、母国への仕送りが目減りした外国人労働者もいる。こうした中で実習生に対する人権侵害が続けば、日本離れが進みかねない。人権に十分に配慮した新制度創設が求められる。

魅力ある環境づくりを

新制度でも、実習生の受け入れ先企業を監理・支援する監理団体などの仕組みは維持される見込みだ。ただ監理団体が人権侵害を是正できない事例も相次いでいるため、報告書は不適切な団体を排除する仕組みも整備するよう求めている。

有識者会議は新制度の詳細をさらに議論し、今秋に最終報告書をまとめる予定だ。外国人にとって魅力ある労働環境づくりに向け、実効性確保が重要だ。

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